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吉良吉影の父親。吉影が21歳の時に癌により病死するが、幽霊となった後もスタンド能力で現世に残り息子を護ろうとする。「エンヤ婆」からスタンドの矢を譲り受け、その時点でスタンド能力を手にした。息子の異常な性癖を理解している唯一の人物で、スタンド能力を持つ者を増やして仗助を倒し、吉影を守ろうとする。仗助と吉影の最終決戦では、早人のポケットに隠れて息子を援護したが、仗助に気づかれ空気弾を逆に誘導され、吉影に仗助と間違われて爆破されてしまう。
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女主人公 女性主人公のゲームで女主人公が名前を呼ばれる場合。男キャラが呼ばれる場合は「非主人公」 【素晴らしき日々~不連続存在~】【ケロQ】(2010-03-26) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart15 508 名前:名無したちの午後:2010/04/12(月) 22 08 44 ID xOPy92nS0 詳細はネタバレになるのでまずは簡易報告から 【素晴らしき日々~不連続存在~】 [ケロQ] 名前変更不可 “Down the Rabbit-Hole” 主人公 水上 由岐 (みなかみ ゆき) 「由岐さん」「由岐」「ゆき」「由岐様」「水上さん」(「水上由岐」「水上先輩」「水上由岐さん」) “It s my own Invention” 主人公 間宮 卓司 (まみや たくじ) 「間宮くん」「間宮」「間宮様」「卓司くん」(「間宮卓司」「間宮卓司くん」「卓司」「バカタクジ」「バカタク」「間宮くん」「間宮先輩」) “Looking-glass Insects” 主人公 高島 ざくろ (たかしま ざくろ) 「高島さん」「ざくろ」「高島」 (「高島ざくろ」「高島ざくろさん」「ざくろさん」「ざくろちゃん」) “Which Dreamed It” 主人公 間宮 羽咲 (まみや はさき) 「羽咲」 (「羽咲ちゃん」「間宮羽咲さん」) “Jabberwocky” 主人公 悠木 皆守 (ゆうき ともさね) 「皆守」「とも兄さん」 (「皆守くん」 「悠木皆守」「悠木皆守くん」「皆ぞう」「悠木くん」「悠木さん」) ※呼ばれる頻度が少なそうなものは( )で。 全国の「タクジ」さん&「マミヤ」さん&「トモサネ」(&一部「トモ」さん)オメデトンヽ(´ー`)ノ 女主人公視点だけど「ユキ」さん&「タカシマ」さん&「ザクロ」さんオメデトンヽ(´ー`)ノ 女主人公視点な上に濡れ場では呼ばれないけど「ミナカミ」さん&「ハサキ」さんもオメデトンヽ(´ー`)ノ ほとんど呼ばれる機会がないけど「ユウキ」さんもオメデトンヽ(´ー`)ノ? 509 名前:名無したちの午後:2010/04/12(月) 22 09 58 ID xOPy92nS0 ここから詳細報告(ネタバレ注意) ※各主人公ルートでのみ呼ばれた呼称。別の主人公のルートでのみ呼ばれる場合は含めていない。 【素晴らしき日々~不連続存在~】 [ケロQ] “Down the Rabbit-Hole” 主人公 水上 由岐 (みなかみ ゆき) 高島ざくろ(CV:涼屋スイ) 「水上さん」→「由岐様」、「由岐さん」(「水上由岐さん」) 若槻鏡(CV:小倉結衣) 「由岐」 若槻司(CV:如月葵) 「ゆき」 音無彩名(CV:成瀬未亜) 「水上さん」(「水上由岐」)→「由岐さん(※エピローグ)」 橘希実香(CV:北都南) 「水上さん」 間宮羽咲(CV:西田こむぎ)「由岐さん」 間宮卓司(CV:佐山森) 「水上さん」 岩田美羽(CV:北都南) 「水上さん」 その他の女子や女教師 「水上さん」「水上先輩」 “It s my own Invention” 主人公 間宮 卓司 (まみや たくじ) 水上由岐(CV:かわしまりの)(「間宮」「間宮卓司」「間宮卓司くん」「間宮くん」) 高島ざくろ(CV:涼屋スイ) 「間宮くん」 「卓司くん(※妄想中)」 若槻鏡(CV:小倉結衣) (「間宮」「間宮卓司くん」「間宮くん」「間宮卓司」) 若槻司(CV:如月葵) 「間宮くん」 音無彩名(CV:成瀬未亜) 「間宮くん」(「間宮卓司くん」「卓司」「卓司くん」) 橘希実香(CV:北都南) 「間宮様」 (「間宮卓司様」) リルル(CV:成瀬未亜) 「卓司くん」(「間宮卓司」) その他の女子や女教師 「間宮」「間宮くん」「間宮様」(「間宮先輩」「バカタクジ」「バカタク」) 510 名前:名無したちの午後:2010/04/12(月) 22 10 44 ID xOPy92nS0 “Looking-glass Insects” 主人公 高島 ざくろ (たかしま ざくろ) 音無彩名(CV:成瀬未亜)(「高島さん」「高島ざくろ」) 橘希実香(CV:北都南) 「ざくろ」 間宮卓司(CV:佐山森) (「高島さん」) 水上由岐(CV:佐山森) 「高島さん」 (「高島ざくろ」「高島ざくろさん」) 悠木皆守(CV:佐山森) 「高島」 (「高島ざくろ」「ざくろ」) その他の女子や女教師 「高島」「ざくろさん」「ざくろちゃん」「ざくろ」「高島ざくろ」「高島さん」 “Jabberwocky”&“JabberwockyⅡ” 主人公 悠木 皆守 (ゆうき ともさね) 水上由岐(CV:かわしまりの)「皆守」 (「悠木皆守」「悠木皆守くん」「皆ぞう」「皆守くん」) 音無彩名(CV:成瀬未亜) (「皆守くん」「間宮くん」 「悠木皆守」「悠木皆守くん」「悠木くん」) 間宮羽咲(CV:西田こむぎ) 「とも兄さん」 (「皆守兄さん」「悠木皆守さん」「悠木さん」) 間宮卓司(CV:佐山森) (「悠木くん」「悠木」「悠木皆守くん」「悠木皆守」) 岩田美羽(CV:北都南) 「間宮くん」 (「とも兄さん」) 間宮琴美(CV:北都南) (「皆守」) “Which Dreamed It” 主人公 間宮 羽咲 (まみや はさき) 音無彩名(CV:成瀬未亜) (「間宮羽咲さん」) 間宮卓司(CV:佐山森) 「司」 水上由岐(CV:佐山森) 「司」 (「羽咲ちゃん」) 悠木皆守(CV:佐山森) 「羽咲」 【処女宮 ~栗毛の潮吹少女たち~】【mini】(2004-03-19) 自分の名前を呼んでくれるエロゲを探せPart11 478 名前:名無したちの午後 :2007/12/14(金) 23 27 04 ID 1MLNkY9T0 【mini】 【処女宮~栗毛の潮吹き少女たち】 主人公 友原春菜(ともはら はるな) ※女主人公 川瀬ユキ(CV:古崎杏) 「春菜さん」→「春菜」 佐倉木千夏(CV:計名さや香)「春菜」 二ノ宮秋穂(CV:春山ハル) 「春菜先輩」 早坂槇(CV:みひろまつり) 「春菜さん」 アンジェラ(CV:みひろまつり)「友原さん」 益田このみ(CV:梨本悠里) 「お姉ちゃん」 智恵(CV:佐本二厘) 「友原さん」 長谷川薫(CV:児玉さとみ) 「友原先輩」 柳瀬ひろみ(CV:児玉さとみ)「友原さん」 全国の「トモハラ」さん、「ハルナ」さんオメデトンヽ(´ー`)ノ
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―――――――――――――――――――――――――――――――― 「――――――――…………………う……ぐっ……」 吉良吉影は泥のような眠りから目覚めた。全身が鉛のように重く、脳は溶けそうで、頭は割れるように痛む。 「(…ぐっ、ぐあああ……)」 しばらく目を閉じ、もう十年以上も味わっていなかった苦痛に耐えていた。だが、いくら待っても良くはならず、むしろ酷くなっていくばかりだった。何か苦痛から逃れる方法を探すため、彼はスカイフィッシュに襲撃されたかのように上がらない瞼を強引に開く。瞬間、彼の目に強烈な光が射し込んで来る。脳が焼けるような激痛に、吉影は慌てて手をかざし、朝日を遮る。まだ日は魔法の森の木々から近くにあったので、夜が明けてからすぐなのだと分かる。 「(うっ……二日酔い…か…。何年ぶりだ…この感覚は…?)」 吉影はしばらく頭の痛みにぼんやりとして倒れ込んでいた。と、やや脳も活動を始め、吉影は頭を揺らさないようにゆっくりと身体を起こし、状況の整理を始めた。 「(ええと…まず今分かることは…。わたしは何故か食堂の外の庭の土の上で寝ていた。そしておよそ十年ぶりの二日酔いに苦しんでいる…。二日酔い…と、いうことは…)」 「ッッッ!!!!」 昨夜の出来事を思い出し、吉影は慌てて懐に手を突っ込み確認する。 「よ、良かった…!酔った勢いで誰か殺したりしてはいないようだ…」 【恋人】がないことを確認して、ホッと安堵する吉影。と、何か硬い物に手が触れたので、取り出してみた。 「これは…たしか…」 取り出した瓶を顔の前にかざすと、中に錠剤が入っているのが見えた。たしか、宴会をやる前に永琳が渡してくれた、二日酔いに効く薬だ。この苦痛から逃れたい吉影は蓋を開け、錠剤をザッと手のひらにあけて口に運び呑み込む。効果が表れるのが早いのか、それとも思い込みか、早速痛みがひいていく。やっと頭がすっきりしてきて、昨夜の記憶を掘り起こしていく。 「(ええと…たしかわたしは【衝動】を抑えられず慧音を手に掛けようとして…妹紅に妨害されて…それから…それから…)」 妹紅と飲み競べを始めた後、あれだけ大口を叩いた吉影だったが、やはり人間無理なものは無理で、情けなくも御椀二杯目でダウンしてしまった。その時、彼の防衛本能が偶発的に覚醒したのか、ハッと正気に戻った吉影は、妹紅がまだ己の勝利に気付かず酒壷に頭を突っ込んでいるのをいいことに、痙攣する腕で身体を引きずってエスケープしようとした。ところが、その時復活した輝夜に 「なに勝手に私の勝負引き継いでんのよっ!!」 と、飛び蹴りをぶちかまされてふき飛ばされて……そこから覚えてないが、おおよその予想はつく。とにかく、彼は庭に落ちて今まで寝て(気絶して?)いたのだった。 「そうか…わたしは…酔っていても誰か殺さずにいられたのか…」 再度、彼は安堵の溜め息をつく。苦痛から解放されると、急に不快感が沸き上がってきた。髮や服は酒が染み込んで固まり、喉はベトベトと渇く。 「うっ…、風呂場に、行くか…水も飲もう…」 吉影は立ち上がり、ふっと食堂を覗き込む。 「…………やれやれだ……」 そこは、酒で血を洗う戦場跡となっていた。妹紅と輝夜は粉砕された酒壷の破片と酒の中で折り重なるようにして倒れていた。やはり最終的にはいつも通りの【決闘】となったのだろう、二人とも服のあちこちがズタズタに破れ、大量の血痕が残されている。あまり家や家具には被害が見られないので、幸運だったと言えるだろう。 永琳とてゐは普通に酔って寝てしまったんだろうが、鈴仙は頭で襖を突き破ったまま気絶していた。そして、致命的なのは……息をしていない。寝息や横隔膜の動きがまるで感じられないのだ。もしかすると、彼女は既に死んでしまっているかもしれない。別にどうでもいいが。 「(ん?そう言えば慧音は……)」 食堂を見渡しても彼女の姿はなかった。 「何故彼女だけ…?一体どこへ……、んっ…?」 足に柔らかいものが当たったので、ふっと見下ろす。 「ッ!?」 彼の足元には、見覚えのある蒼い服―今は酒にまみれているが―を身に着けた、女性の身体が横たわっていた。全く目を覚ます素振りを見せず、静かに寝息をたてている。 「……………………」 吉影は無防備に眠る慧音の顔を覗き込む。 「…隣で寝ていたのか…気付かなかった…。」 吉影はしばらく眠る慧音を見下ろしていた。と、彼女の脇にしゃがみ、横たわる彼女の身体をそっと抱き上げる。 「……君だったのか、わたしを縁側に引き上げようとしてくれたのは。」 瞼を閉じた慧音の顔に、吉影は呟く。彼は慧音を抱き抱えたままフラフラと危なっかしい足取りで縁側に上り、食堂に運び込んだ。彼女を起こさないよう、静かに下ろし、部屋の隅に畳んでいたため巻き込まれずに済んだ自分の背広をそっとかける。 「……………………」 安らかに眠る慧音を、吉影はしばらく眺めていた。その表情は温かいものだったが、どこか複雑な表情だった。当たり前だ、つい数時間前に殺しそうになった女なのだから。 「(また、だ…また【衝動】に負けてしまった…)」 唇を噛み締め、己の軽率さを戒める。 「(【本性】は打ち明けてはならない…誰であろうと…絶対に…そうでなければ、【平穏】は脆く崩れてしまう…ただでさえ厄介な妖怪や能力者が溢れているのだから…)」 彼は猛省した。自身の情動を抑えつけ隠すよう、堅く心に誓う。 「(吉良吉影…【本性】を抑えろ…抑えるんだ…わたしなら出来るはずだ…実際、今は【衝動】は鎮まっている…この世界から脱出する方法を見つけるまでは…【彼女】を手に入れるのは、その後だ…)」 心に深く刻み付けた後、吉影は慧音から目を離す。 「…風呂場に行きたいな…家の中を通って行くのは…、無理か。」 襖に頭を突っ込んでいる鈴仙を一瞥し、 「…縁側を通るか。」 縁側に出て、風呂場に向かおうと歩き始めた時だった。 カシャッ 「むっ!?」 突然視界が真っ白になった。と、思ったら、それも一瞬のことで、すぐに視力は回復する。 咄嗟に光の差してきた方向へ目をやる。そこには… 「どうも~!毎度お馴染み、清く正しい射命丸で~す!!」 背中に黒い翼を生やした少女が、ホバリングしながらにこやかにカメラを胸元に構えていた。 「……………………………」 吉影の「なんだこのアマは?」という不快感を伴った怪訝な表情を見て、その少女は「やれやれ、これだから外来人は…」といった感じに首を振り、スタッと降りて言葉を繋げる。 「初めまして川尻さん。私は射命丸文と申しまして、この幻想郷で新聞記者兼編集長兼社長兼をやっています。以後お見知り置きを。」 「新聞記者だと?」 「ええ、そうです。ほら、あなたも聞いたことはあるでしょう?幻想郷一早くて確かな真実の泉、【文々。新聞】…」 「なッ…あっ…!?」 吉影は心の中で舌打ちした。そう、聞いたことがあるのだ、【文々丸新聞】についての評判を。 「(くそっ!!粘着質であることないこと書きなぐるという、あのパパラッチ天狗か!!最悪なヤツに目をつけられてしまった…!)」 吉影は警戒心を表に出さず、やや戸惑った自然な反応を返す。 「えっ…ああ、知ってはいるが、読んだことは…。で、その記者が、何の為にわたしを撮影したんだ?」 「ええ、新鮮なネタの匂いがプンプンしたので。」 一切悪びれることなく爽やかに言い切りやがった。 「(くっ…こ、こいつ…とてつもなく不吉な感じがするぞ…!!とにかく、なにか情報を…)」 吉影は警戒心を敵愾心に格上げさせ、尚且つそれを覚られないよう注意しながら、質問してみる。 「……何が言いたい?」 「いえいえ、大したことではありません。」 射命丸はいつの間にか手帳と万年筆を握り、あの不吉な笑顔を浮かべていた。 「ただ、少~しばかり【取材】させてもらいたいだけなんですよ。」 「……………はぁ、分かった、受けてやろう。」 吉影は溜め息をつき、承諾したが、彼の脳内では目まぐるしく思考が駆け廻っていた。 「(まずはこいつの【危険度】を確認しなければ…どれだけ深いところまで知っているかを聞き出して、場合によっては……)」 一瞬、彼の目が鋭い殺人鬼の光を帯びる。 「(塵ひとつ残さず、【始末】してやる。) だが、その前に君もやるべきことがあるんじゃないか?人に名を尋ねるときは自分から名乗るように、人から情報をもらう時は…」 「……分かりました。こちらも情報公開といきましょう。では、あなたの欲しい情報は?」 「君が撮影したわたしの写真、わたしについて知っていること、わたしについてどんな記事を書くつもりか、全て話してもらおう。話はそれからだ。」 射命丸は手帳のページをめくる。 「ええっと、そうですね、まず見出しは【噂の外来人大特集 新月の夜に現れた謎の男の正体に迫る!!】それから【外来人、寺子屋で授業 外の科学の実態とは!?】、【謎の外来人VS幻想郷の不死鳥 飲み比べ対決!酒豪だらけの幻想郷で、果たして外来人は生き残れるのか!?】…と、まあこんな感じです。あと…」 射命丸はいつどうやって撮ったのか分からない、吉影の授業風景や昨晩の様子を写した写真を見せながら話しを進める。 「(ううむ、そんな他愛もない内容なら、わざわざ危険を冒して始末する必要はないな。人間や妖怪共に注目されるのは癪だが…)」 吉影が心の中で安堵の溜め息をついた時だった。 バサッ 「あッ……」 射命丸の手帳から、数枚の写真がハラリと地面に落ちた。 「むっ……?…!?」 吉影はそれらを反射的に目で追い、眉をひそめた。 それは、慧音が吉影に寄り掛かり、お互いの手を重ね合っている場面をバッチリ激写した写真だった。 「あッ…!!」 吉影はかがんで拾おうとした、が… 「おおっといけない。」 「!?」 小さなつむじ風が吹き、彼の手が届く前に写真をフワリと浮かせた。そして写真は風に漂いながら、射命丸の手に滑り込んでいった。 「(今の風は…こいつの仕業か?)」 吉影は目の前の天狗の能力について思考し始めたが、それより差し迫った問題を解決するため、やや不快感を滲ませて彼女に問う。 「おい、お前、その写真でどんな記事を書こうとしているんだ?」 射命丸はあの嫌な笑いを浮かべたまま答える。 「いえいえ、最近外の世界から流入してきた雑誌を、なにか参考になる要素はないかと見ていたんですが、その時に興味深い内容を見つけましてねぇ。」 彼女はニコリと笑いながら、ポーチから女性物の雑誌を取り出す。 「私は以前から妖怪と人間双方の興味を引く記事を書きたかったのですが、やっとそれにたどり着いたんですよ。つまり…」 彼女が雑誌のページをめくり、吉影に見せる。 「他人の【男女関係】ほど人妖老若男女万人ウケする話題はないということですよっ!!」 嬉々として得意気に語る射命丸を、吉影はあまり穏やかじゃない目付きで凝視し、考えを巡らす。 「(クソッ!やはりパパラッチ、幻想郷のソレも外のハゲ鷹共と同じく所詮ゴミクズということかッ…!!)」 胸の内で悪態をつきながら、吉影は怒りを抑えて口を開く。 「すまないが、それを記事にするのは勘弁願いたいな。写真もフィルムも預からせてほしい。」 「おやおや、否定せずに口封じを企むとは、やはり事実ということですか!?いやはや、人間としては長めの人生でずっと守ってきた慧音さんを僅か数週間でモノにするなんて、できればどうやってオトしたのか詳しく…」 「違う、そういった関係じゃない。普通に居候の身分だ。さあ、早く渡してくれ。根も葉もない噂をたてられては、人里で安心して暮らせないばかりか、慧音の家に居られなくなるじゃないか。」 イライラと吉影は首を振り、射命丸に詰め寄る。が、彼女は依然としてあの不愉快な笑みを絶やさず、手帳のページをめくる。 「もちろん、タダでとは言いません。こちらからも、あなたにとって【非常に】有意義な情報をお教えしますよ。それこそ、歓びで全身の毛が逆立つほどのを…。」 「?」 何かを探してページをめくる射命丸を、吉影は訝しげに眺める。と、お目当ての物を探し当てたのか、手帳から一枚の写真を抜き取る。 「ああ、あった!これがそれです。気を強く持って、パニックに陥って叫んだりしないようにお願いしますよぉ~!!」 自信満々に鼻を鳴らし、射命丸はその写真を吉影に飛ばす。吉影はそれをキャッチし、両手でしっかりと持って目を落とし――― 「―――ッッッ!!!!!?」 吉影は驚愕に目を見開き、愕然と口をあける。瞳が動揺で揺らぎ、息を呑む。 「(なッなんだとぉォォォォォォォォォォォォオッッ!?!?!?)」 吉影の両手がワナワナと震える。その手が握る写真には… 昨晩の宴会の様子、てゐが吉影に絡んでいる場面だった。別にそれだけならなんら問題は無い。問題なのは、【吉影の背後に佇む、巨漢の人型の影】が写っていることだった。 「(そんな…馬鹿なッ!?何故だッ?何故【キラークイーン】が写真に写っている!?)」 吉影はギリッと歯を噛み締める。 「(なんということだ…始末しなければならない!!)」 相手に気取られないよう、間合いを測る。 「(相手は天狗だ…一瞬で片付けないと逃げられてしまう…あと一歩近付いて、すぐさま爆弾を撃ち込めば…)」 吉影は、慎重に、だが何気無い動作で、射命丸との距離を詰める。五十cm…三十cm…十cm…射程距離に入った。 「(死んでもらうぞッ!射命丸 文ッ!!)」 【キラークイーン】の手が足元の小石を拾い上げ、射命丸に撃ち込もうとした時だった。 「どうです?気付かなかったでしょう?自分が幽霊に取り憑かれていたなんて!!」 「……………………え……?」 予想外の台詞に、吉影は肩透かしをくらった。 「大丈夫です、まだ誰にも話していませんよ。いくら幻想郷でも、幽霊に取り憑かれるなんてのはかなり良くないことですからねぇ。里の人間にバレたらえらいことですよ。ですが、ご安心ください。私が腕の良いお祓い師をご紹介してあげますよ。あなたが良心的に【取材】を受けてくださるなら…」 射命丸は得意気に、ニコニコ笑う。 「あ、ああ、そうか、そうだな……………」 吉影は要領を得ない返答をし、必死に思案する。 ようやくひとまずの対策を練り、辺りをキョロキョロと見回すと彼は射命丸にサッと目を向ける。 「……ここで話すのはお互いにとって不利益になる。どうだ、続きは人里の外でしないか?わたしは着替えをすませてから行くから、すまないがそれまで待っていてくれないかな。」 吉影の言葉を聞き、【取材】の許可だと思ったのだろう、射命丸はニッコリと微笑んだ。 「分かりました!では、東門から真っ直ぐ行ったところの林の中でお待ちしています!」 バサァッ、と黒い翼を翻し、射命丸は物凄い速さで飛び去って行った。 ―――――――――――――――――――――――― バシャァッ 「…クソッ!!」 バシャァッと激しく水がはぜる。吉影の皮膚を伝い、早朝の澄んだ空気と相まって二日酔いの残る彼の意識を覚醒させる。 吉影は浴室にいた。朝すぐにわかして酒にまみれた身体を流すために昨晩風呂桶に水をいれていたのだが、彼はそれをそのまま桶で汲み、バサッと頭から被る。顏を流れ落ちる水が彼の鬼気迫る表情を一層険しくみせている。 「なんてことだ…せっかく平穏にこの家に、この世界になじむと思ってたのに…」 きつく噛み締めた歯の間から、低く唸り声が漏れ出す。双眸が浴室の壁を貫きそうなほど鋭い光を放つ。桶を握る右手がワナワナと震える。 「今年はヒドイ目にばかり会う…なんて年だ…【始末】しなくてはいけない!あの小娘を【殺す】のは目立つことで非常にまずいことだ…しかし あれを見られた以上…」 バッと顏をあげ、窓の外、森の木々から全身をさらけ出した朝日を、その下で吉影を待っている【敵】を睨む。 「やらざるを得ない!」 彼の右手の中で、木製の桶が砕けた。 ―――――――人里東門―――――― 「……でさ、そしたらあいつ一升瓶一気に煽っちまってさぁ~」 「おいおい大丈夫かよ、あいつ酒癖悪いんだろぉ?」 門の前で、二人の門番が朝日を眺めながら話していた。 「ああ、だから止めとけって言ったんだよ。だけどあいつ相当ショックだったみたいで…」 門番の一人がもう一人に愚痴を言っていた時だった。愚痴に付き合っていた方の門番がなにかに気付き、話を遮る。 「おっ、見ろよ、川尻さんだ。こっちに歩いて来るぞ。」 「川尻さんってっと、最近流れ着いた外来人だっけ?寺子屋で授業しているんだったか?」 「ああ、良く娘が話すんだ。【川尻先生の授業は慧音先生のより楽しい】ってな。なんでも、素質や知識が無くても使える魔法みたいなものを教えてくれるらしい。」 「ふ~ん、にしても、こんな朝早くにどうしたんだろうな。」 寺子屋に通う娘を持つ男が吉影に声をかける。 「川尻先生~!おはようございます。」 顏を俯かせて歩いていた吉影はハッっと立ち止まり、門番に挨拶を返す。 「あ、ああ、おはよう。お仕事お疲れ様です。」 門番は友好的に笑いながら、自己紹介し吉影に話しかける。 「先生こそ、毎日寺子屋の授業、お疲れ様です。娘が良くあなたの事を話していますよ、授業が面白いって。」 「そうですか。そう言ってもらえると、こちらも嬉しい限り、教師冥利に尽きるというものです。娘さんはとても優秀ですよ。教えたことをすぐ理解して、良いところに目を付けて質問をする。本当に良い子です。」 吉影は脳内を駆け巡る怒りや不安、思考を頭の隅に追いやり、外交モードにチェンジする。二、三寺子屋についての話題で談笑した後、門番はところで、と質問する。 「こんな朝早くにどうしたんです?里の外に出ようとしているみたいですが。」 吉影はなんと言って誤魔化すか少し迷った後、答える。 「幻想郷に来た時、森の中に落とし物をしてしまってね、一緒に探そうと妹紅と約束しているんですよ。」 「なるほど、妹紅さんと一緒なら心配ありませんね。探し物が見つかるよう、祈ってますよ。」 「有り難う。…ところで……」 吉影が何食わぬ顏で質問する。 「わたしがここに来るまでに、誰かこの門をくぐって行きましたか?」 「いいえ、誰も通りませんでしたが、それが?」 「いえ、里から出て外で仕事をする人はいないのかと思っただけです。それでは。」 吉影は軽く会釈し、門をくぐって里の外へと出て行った。 「(よし、二人の話だと、あの天狗は門をくぐらず空を飛んで待ち合わせ場所に向かったようだ。勿論目撃されてもいないだろう。ならば―-―)」 吉影の身体から陽炎のように殺気が立ち上った。 ――――――――――――――――――――― 「お、ようやく来たみたいね。」 樹の枝に腰を下ろし自分の手帖を眺めていた射命丸は、顏をあげバサッと土の上へと飛び降りる。森のやや奥まった人里の人間に見られたり聞かれたりする心配のない場所、待ち合わせの場所に、人影が近付いて来る。その人影は森の木々をかき分け、射命丸のいる場所にたどり着いた。 「随分遅かったじゃないですか、川尻さん。外の世界は天狗でも追い付けないほど目まぐるしく変化していく社会だと聞いていましたが、そんな調子で置いてけぼりにされたりしなかったんですか?」 射命丸は暗に『何か余計な小細工仕掛けて来てねぇだろうなぁオィ?』と警告を込めて言ったのだが、吉影は悪びれる様子なく懐に手を入れる。 「いや、これを探していてね…」 彼が懐から手を出すと、その手には封筒が握られていた。 「?何ですか、それは……、っ!?」 吉影がその封筒を射命丸に向けて軽く放った。射命丸は突然の動作に驚きながらも容易くそれをキャッチし、中を見る。 「これは………」 封筒の中に入っていたのは、札束であった。それも、結構な厚み、人里の住人の平均月収の七、八割ほどだろうか。 そんなものをいきなり無言で投げてよこされた射命丸は、怪訝な表情で吉影を見る。 「これは……何のつもりですか?これで祈祷師を雇って欲しいということですか?それとも、この端金で記事の内容を書き換えてくれと、そういうことですか?」 吉影は、何も言わない。 「……なるほど、そういうことですか、私が、金の為に、そんな人間のおままごとの玩具の為に、記者をやっていると、そう思っているんですか。」 射命丸は自尊心を傷付けられたことに怒りを露にし、侮蔑の目で吉影を眺める。 「それはそうですよね、人間は権威があれば、多数派であれば、事実を歪めていいと思っている動物ですからね。短い時しか生きられないから、私達妖怪のように真実を知らず、誰かが自身の為に創った歴史に凝り固まって、考えることすら放棄してしまった、誠に【人間らしい】生き物です…か…ら…………」 射命丸の台詞が、途切れた。吉影の瞳に、媚びとは真逆の感情、勝利の確信の光を感じたからだ。 「(ま、まずいっ、この男、何かを……)」 射命丸が黒い翼で空気を叩くのと、【キラークイーン】が右手のスイッチを押すのとは、同時だった。 「勝った!!死ねッ!!」 爆弾に変えた封筒のスイッチを押し、吉影は勝利の声を揚げる。 「ああああああああああああああああああああああぁぁぁ!!」 「フハハハハハハハハハ――――――――!!」 吉影は勝鬨の笑い声をあげた。射命丸は断末魔の悲鳴をあげながら、肉体を内側から破壊され、全身がバリバリと裂け、砕け、粉々になり、塵と成って風に還っていく…………………………………はずだった。 「――――――――……なん……だと……?」 吉影が驚愕に目を見開く。 射命丸は何事もなく封筒を手に持ち、繁った樹の枝の下あたりの高さでホバリングしていた。 「……………………な~んてね。」 射命丸は封筒を手に持ち、一瞬前まで金切り声をあげていた口をニヤリと歪め、首に掛けているポラロイドカメラを硬直している吉影に向けて、 「はい、チーズ。」 シャッターをきった。フラッシュが焚かれ、吉影が我に返る。 「き、貴様っ!一体何を…」 殺気を滲ませて問い詰める吉影にも全く臆することなく、彼女は飄々とした口調で、 「というわけで、この端金はお返ししま~す。」 吉影目掛けて封筒を投げつけた。能力を付加して投げたため、追い風を受けて豪速球で吉影に迫る。 「はッ!?」 吉影は咄嗟に封筒を撃墜しようと【キラークイーン】に小石を投げさせた。 ドグォォォォォォォォッ!! 封筒に触れた瞬間、小石は爆炎をあげて粉砕された。爆風で札束が吹き飛ばされ、吉影の周りを落ち葉の様に舞う。吉影は【キラークイーン】を戦闘体勢に入らせ、カメラを構える射命丸を睨む。 「(今…爆弾に変えた封筒はきちんと作動した…奴が持っていた時は不発だったというのに…。それ以前に、奴は爆発が起こったことにも驚いていない…いや、それどころか、爆発が起こることを予想していた様な様子…まさか…!!)」 ギリッと奥歯を噛み締め、吉影は射命丸を見据える。 「貴様…最初から分かっていたんだな…わたしが能力を持っていることをッ!」 「あやや、流石に気付かれましたか。」 射命丸は見ているだけでぶん殴りたくなるような馬鹿にした笑みを浮かべ、吉影を見下ろす。 「お察しの通り、私は最初からあなたが【能力】を持っていることを知っていました。そして、私の目的は初めからあなたに【能力】を使わせ、その現場を激写すること。写真をワザと落としたのも、その後この【心霊写真】を交渉材料として見せることで、私があまり重要視していないように思わせたのも、全て貴方を人気の無い場所に誘い込み、安心して私に【能力】を使うように仕向けるためよっ!!」 射命丸はすでに営業用紳士モードの仮面を脱ぎ捨て文屋モードの本性を表していた。敬語も止め高圧的な口調で吉影に言い放つ。 「…どこまで知っている?どこから知った?」 吉影は冷静に射命丸の挙動を【キラークイーン】の目で観察し、情報を聞き出す。 「ルーミアの件、神社での戦闘、人里での私生活、全て把握してるわ。情報源は手段までは教えないけど、殆ど自分の目ね。一度ルーミアと霊夢さんにインタビューしてみたけど、ルーミアは闇に隠れたままで何も言わなかったわ。ちょっと【交渉】しようとしたけど、咽び泣くだけで要領を得なかったわ。よほどあなたに痛め付けられたのが堪えたんでしょうね、【私を見ないで】とうわ言のように繰り返していましたよ。霊夢さんのほうは【あんたが見てたこと以上のことは知らないわよ】と言われたわ。」 射命丸はいけしゃあしゃあと吉影に答える。情報源の人々が吉影に狙われるかもしれないのに平然と教えたのは、【取材】に協力しない者の安否は眼中にないと彼に伝えるためだろう。 「……わたしの爆弾の弱点も、知っていたのか…?」 吉影の質問に、射命丸は得意顔で解説を始める。 「いいえ。ですが、戦いの様子をを観ていて、あなたの【能力】の特徴は分析出来たわ。一つは爆弾そのものが爆発するタイプ、二つ目は爆弾に触れているものを爆破するタイプ。そして、貴方がお金を渡してきた時点で、対策は決定した…。貴方が今何よりも必要としているお金を、爆破してしまうわけがない。つまりっ!」 射命丸の瞳が優越感をいっぱいに湛える。 「封筒が爆弾に変えられていたとしたら、間違いなく【触れたものを爆破する】タイプッ!!そして、それが分かっているなら、爆弾に触れるものを無くせばいい。後は…分かるわね?」 「……貴様の能力は、風を操る能力。…真空で爆弾を覆ったのか?」 射命丸が烏の羽でできた団扇をビシッと吉影に向ける。 「はい、せ~かい!!私には能力は通用しない!」 彼女の双眸に闘争心がたぎる。 「【取材】はたった今、【尋問】に変わった!!私の千年以上の天狗生の中で、【取材】に非協力的だった者を許したことなど、一度だってないわっ!!」 射命丸が威勢良く啖呵をきる。その姿からは記者のそれを超越した使命感が感じられた。 そんな闘争心剥き出しの彼女を見て、吉影は額に手を当てる。 「なんということだ…あれを見てしまったか…そして…文屋きさま………も、わたしの【最も苦手とする能力】を持っている……のか!」 手をおろし、顔をあげ射命丸を見据える。その目には不安や焦りはなく、ただ冷静に、しかし普段は見せない圧倒的な自信を静かに燃やしていた。 見下ろす射命丸、見上げる吉影、二人の視線が交錯し、空気がピリピリと緊張を高めていく。 「君」 「……?」 「ひとりかね…?」 「…ええ、今、誰も連れて来てないわ。私は一人よ。」 射命丸の返答を聞き、吉影はこの一触即発の場に似つかわしくない穏やかな口調で語り始める。 「私の名は【川尻浩作】、年齢33歳」 「?」 「自宅は杜王町北東部の別荘地帯にあり…結婚はしていない…仕事は【カメユーチェーン店】の会社員で毎日遅くとも夜8時までには帰宅する。」 「………………………………」 とうとうと話を続ける吉影を、射命丸が油断なく睨む。 「タバコは吸わない 酒はたしなむ程度。夜11時には床につき必ず八時間は睡眠をとるようにしている… 寝る前にあたたかいミルクを飲み20分ほどのストレッチで体をほぐしてから床につくとほとんど朝まで熟睡さ…赤ん坊のように疲労やストレスを残さずに朝目をさませるんだ… 健康診断でも異常なしと言われたよ。」 「……なんの話をしているの?今さら【取材】に協力したところで――」 射命丸が口を開いたが、遮って言葉を返す。 「わたしは常に【心の平穏】を願って生きてる人間ということを説明しているのだよ…【勝ち負け】にこだわったり、頭をかかえるような【トラブル】とか夜もねむれないといった【敵】をつくらない…というのが、わたしの社会に対する姿勢であり、それが自分の幸福だということを知っている… もっとも、闘ったとしてもわたしは誰にも負けんがね。」 【キラークイーン】が足元の小石を拾い上げ、射命丸の眉間に狙いを定める。 「……………………………………………………」 場の緊張は限界に達していた。二人の覇気が空気を伝い、木の葉や雑草をビリビリと揺らす。 一陣の風が、森の木々を音をたてて揺らして通り過ぎて行った。 「うおおおぁぁぁッ!!」 「せえぇぇぇぇい!!」 それを合図に、両者共に攻撃に入る。吉影の方が、射命丸の団扇より一瞬早く爆弾の小石を撃ちだしていた。爆弾が常人には見ることすらできない速さで射命丸に迫る。だが―― ゴオオォォォォォォォォォォォォ!! 滅茶苦茶な威力の風が吹き荒れ、小石を弾き飛ばしてしまった。 「なにッ!?」 暴風が吉影に迫り、彼は【キラークイーン】の脚で身体を固定し身構える。 グオオォォォォォォォォォ!! 台風のそれより遥かに強力な風が、吉影を吹き飛ばそうとする。【キラークイーン】に支えられていても、立っているのがやっとだ。 「(何だ、これは…!風なんて生ぬるいものじゃないッ!爆風や衝撃波の域だッ!!)」 吉影は爆弾を解除し、次の小石を爆弾に変える。【キラークイーン】に狙撃の体勢を取らせ、風が止むのを待つ。 暴風はすぐに止み、二人は再度対峙することになった。 「風は大気の血流、気圧の不均衡の是正…」 射命丸は口元を団扇で隠し、吉影を見下ろす。 「情報もそれと同様。人妖、勢力、地域…あらゆる要素が密度、質、種類の偏りを生む…。事実は独占され、隔離され、歪められる…。私はこの幻想郷に一陣の風を起こし、淀み埋もれた真実を、白日の下にさらけ出す。それが私の【使命】ッ!!」 射命丸が団扇を振り上げる。同時に、【キラークイーン】が小石を撃ち込む。 グオオォォォォォォォォォ!! 射命丸が団扇を振り下ろすと共に、さっきの衝撃波が吉影に迫り来る。爆風はまたも小石を弾き返し、弾道をねじ曲げ、小石は木の枝に突き刺さった。 「ぐおおッ!!」 吉影は衝撃波に吹き飛ばされまいと【キラークイーン】の脚で踏ん張り、耐え抜く。強風が吹き荒れる中、余裕たっぷりに彼を見下ろす射命丸を睨み―― 「【キラークイーン】!!」 爆弾のスイッチを押した。 ドグオオオォォォォォォ!! 「ッ!!」 射命丸の右前方の木の枝が爆発し、人の胴ほどもある枝の破片が襲いかかってきた。 「(さっき撃ち込んだ小石は風に吹き飛ばされあの枝に命中するように狙って撃っておいた…!これで先手は獲れたぞ!!さあ、どう出る?)」 枝が射命丸に命中しようとした瞬間―― 「ッ!?」 射命丸の姿が一瞬で消え失せ、枝は通り過ぎて木の幹にぶち当たっただけだった。 「な、なにッ!?消えただとッ?どこに行った!?」 「ここよ、のろまさん。」 ハッと後ろを振り返った瞬間、 カシャッ 射命丸のカメラがフラッシュをたいた。その光は吉影の脳に食い込み、脳内を真っ白に染め上げた。 「ぐああぁぁぁ!?」 「(な、なんだこれはッ!?スタンドパワーが、う、奪われる…!)」 吉影は力が入らない身体に渇をいれ、【キラークイーン】にまたも小石を撃たせる。が、射命丸はまさしく超人的な瞬発力でそれを回避し、吉影の周りを物凄い速さで飛び回り始めた。さらに翔びながら団扇を振り、吉影を取り囲むように風を起こす。 「(クソッ!自分は軽快かつ高速に飛び回り、さらに風を起こして敵の自由を奪う…。分かってきたぞ、コイツの戦い方…!)」 四方八方から押し寄せる風の洪水の中、引き倒されないよう耐えながら、吉川は冷静に敵を観察する。 「(そして…あのカメラ、どう言った原理か知らないが、わたしからスタンドパワーを奪っていった…。恐らく【キラークイーン】の影が写っていた写真も、あのカメラで撮影したものだ。…しかし、本当に厄介な奴を敵に回してしまった…。)」 【キラークイーン】ではどうしようもない高速飛行能力、風による攻防一体の遠距離攻撃、対スタンド兵器、観察眼、慎重さ…どれも恐ろしいものだが、それら以上に彼が危惧していることがあった。杜王町で東方仗助たちと闘った時、彼らは決して逃げようとしなかった。吉影を逃がさないために。己の大切な者を護るために。だが、今回の敵は違う。ネタは既に揃っているし、幻想郷でも最速クラスの足を持っているのだ。いつでも逃げて良いし、逃げられる手段を持っているのだ。 「(…速い。速すぎる。姿を目視できない。過ぎ去った後の木の葉の動きで何とか追えるくらいだ…)」 だが、彼の目は圧倒的な自信に満ちていた。 「【わたし自身】にはなッ!!だが…!!」 【キラークイーン】が吉影のポケットから人の目玉ほどの大きさの【鉄球】を取り出し、爆弾に変える。 「【キラークイーン】の目ならッ!至近距離で発射された銃弾を受け止める、仗助のクレイジー・ダイヤモンドと同等のスピードを誇る、我が【キラークイーン】ならッ!!」 【キラークイーン】が【鉄球】を発射する構えをとる。 「見えるっ!見えるぞッ!!このクソアマの動きがァー!!」 目にも止まらぬ速さで縦横無尽に木々の間を飛び回る射命丸目掛け、【キラークイーン】が【鉄球】を発射した。 「はっ!?」 射命丸は、【鉄球】が自分の飛行軌道上を通過することも、それがこのままでは自分を貫通することも、咄嗟に理解した。そして、それを回避するため、団扇で風を巻き起こし【鉄球】を弾き返した。【鉄球】は吉影の頬を掠め、背後の木の幹に突き刺さる。 「…あなたも物分かりの悪い人ね。」 射命丸は団扇の風の反動を利用してブレーキをかけた。ホバリングしながら呆れた口調で吉影に言う。 「いくら爆弾を飛ばしても、烏天狗である私に命中させるなんて芸当、ホーミング無しでは無理よ。例え今みたいに運良く当てられそうになっても、天狗の団扇で全て吹き飛ばされる。いい加減、諦めたらどう?外来人風情が多少変わった力を身に付けたからって、赤子同然のあなたが千年の時を生きてきた妖怪に勝てるなんて、思い上がりもいいところだわ。言っとくけど、ルーミアは幻想郷でも比較的弱い部類よ。あんな弱小妖怪に勝ったからって、私を嘗めないでほしいわね。調子乗るんじゃないわよ人間風情が。」 「…フンッ、無駄だと?」 吉影は鼻を鳴らし、射命丸を睨み返す。 「何を言っている…跳ね返してくれるのが良いんじゃないか。撃ち込んだ爆弾を、きちんと吹き飛ばしてくれるのが良いんじゃないか――――――――」 「?」 「さっき撃ち込んだ爆弾も…君が風を起こしたおかげで、木の幹に突き刺さっている…丁度、わたしの背後にな…」 【キラークイーン】が、右手のスイッチを押した。 ピカアァァァァァァッ!! 「ッ!!!!」 吉影の背後の木の幹にめり込んでいた【鉄球】が、眩い光を放った。 光は射命丸の視力を奪うほど近くはなかったが、吉影の姿を彼女に見えなくするには十分だった。 「くっ…!!逆光で…み、見えないッ!!」 【鉄球】の正体――――――――それはアルミニウムと酸化鉄「(Ⅲ)」の混合粉末を封入した【爆弾】。アルミニウムが酸化されると同時に酸化鉄「(Ⅲ)」が還元され、膨大な光と熱を生む【テルミット反応】と、【【キラークイーン】】の【第一の爆弾】を組み合わせることによって、熱と光の量を調節できる【傷痍閃光弾】である。今回は発生するエネルギーを光に偏らせ、【閃光弾】として使用したのだ。 吉影は背後からの閃光弾の光には影響を受けない。敵だけを視界不良にし、自らは視覚に頼っている感覚を衰えさせない、完璧な目潰しだ。 「(成功だッ!殺れるチャンスは今!今しかないッ!!)」 吉影は【キラークイーン】の脚で跳躍する。爆弾に変えた小石を構え、極力至近距離から撃ち込むつもりだ。 「うおおおおおおおおおォォォォォォッ!!」 【キラークイーン】が、射命丸の額に狙いを定めた。 ―――――――――――― 射命丸は、視力を奪われながらも、ニヤリとほくそ笑んでいた。風を操る程度の能力を持つ彼女にとって、空気の動きを感じて周囲の様子を察知することなど、朝飯前だったからだ。だから、吉影が自分に向かって来ることも、その彼の隣で右腕を突きだして自分を狙っている者――――――背後霊のような――――――がいることも分かっていた。そして、彼らが向かってきたということは… 「(フフッ、やっと攻撃の瞬間を撮影できるわ…。)」 射命丸が期待に胸を膨らませ、カメラを構える。彼女のカメラは幻想郷の少女たちの弾幕勝負を撮影するため、美しく光り輝く弾幕を綺麗に写せるよう、逆光対策を施していた。この逆光の中でもいつも通りの働きをしてくれるだろう。そして、彼女が【攻撃の瞬間を撮影】したかったのは、単に写真の迫力のためではなかった。 「(ターゲットの攻撃の瞬間…それは相手の強い敵意や意志が最も顕著に表れる一瞬!!その瞬間、シャッターをきれば、相手の力を最も鮮明にこのカメラに収めることが出来る!!あの【【キラークイーン】】っていうのを完璧にカメラに収めるには、その瞬間以外ないッ!)」 彼女の頭には、スタンドパワーを奪い尽くされると吉影がどうなるかなどという考えは、欠片も無かった。自分の安全すら眼中に無かった。【スクープを独占したい】、ただそれだけが彼女を突き動かしていた。 「(もっと…もっと近くから!!)」 黒い翼で宙を打ち、カメラを構えて吉影に向かって行った。 ――――――――――――― 「(これで…わたしの勝ちだッ!これで今夜も熟睡できるッ!!)」 吉影は、【キラークイーン】の腕で、爆弾を発射しようとした。射命丸の眉間に狙いを定め、小石に添えた親指を引き絞り、渾身の力をこめて撃ち込もうとした。だが… 「……………………?」 吉影は攻撃を止めた。戦闘の最中、それも二度と訪れぬやも知れぬ最大のチャンスを目の前にしているというのに、訝しげな表情をしている。それは、幽かな物音に耳をそばだてているような様子だった。その直後、 「ハッ!?」 吉影が目を見開く。射命丸が、逃げるどころかこちらに突っ込んで来ていたからだ。 「ま、まずいッ!【キラークイーン】ッ!!」 寸でのところで攻撃を思いとどまる。その瞬間、 「ぐおおおぁぁぁぁぁぁ……!!」 シャッターがきられ、吉影の視界は白一色に染まった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「―――?………」 射命丸はカメラから目を離した。閃光弾の光が消え、視力が元に戻っている。辺りをキョロキョロと見回す。 「…あや?あややや?」 カメラは確実に【キラークイーン】を撮影した。風の動きが、彼の攻撃の瞬間を教えてくれた。だから、今頃は力を奪われ倒れ伏している吉影が彼女の足下に転がっている、はずだった。 「い、いない!?馬鹿なっ!確実に仕留めたはず…!!」 吉影の姿が、何処にもないのだ。有り得ない、彼女はそう呟き、周囲を見渡した。と、その時だった。 「どこを見ている?のろま。」 ハッと声のした後ろを振り返ると、そこには吉影が立って自分を見ていた。 「ん?どうしたんだい?そんなに驚いた顏をして。」 ホバリングして何時でも逃げられるよう身構えている射命丸に、吉影は悠然と話しかける。その姿には、絶対的な安心感と自信に満ち溢れていた。 「…………………………」 再度カメラを構える射命丸を見て、吉影は微笑みながらやけに落ち着いた声で言う。 「親切心で言ってあげるが、無駄だ。君が何をどうしようとも、わたしは無敵になったんだよ。」 「…………無…敵…?」 射命丸は内心怖じ気ついていた。先程まで敵意を剥き出しにしていた相手が、急に微笑を浮かべ、穏やかな声で諭すように話し始めたら、だれだって不気味に思うものだ。 「ああ、そうだ。今のわたしには、どんな攻撃も通用しない。」 吉影は穏やかに射命丸に言う。 「【キングクリムゾン】…と名付けたんだがね…」 「…キング…クリムゾン…?」 「ああ、そうだよ。この能力は、この世の全ての時間を吹き飛ばし、その間に起こった出来事を、全て消し去る。」 「じ、時間を吹き飛ばす…ッ!?そんな、馬鹿なっ…!」 射命丸が信じられないと声をあげる。だが、吉影はそんな彼女を無神論者がカルト教団を侮蔑するような目で見る。 「フフッ、何を言っている?わたしの外での知り合いには、時間を止めるヤツまでいた…時間を爆破する者がいても、不思議じゃない。そして、消し飛んだ時間の中で、君はわたしの身体を通り抜けて、今いる場所で止まったんだよ。」 「ぐっ……!!」 「(時間を爆破ですって…!?信じられないわ…。でも、紅魔館のメイド長にすら出来ないことを、ハッタリで思い付くとも思えないし、何より私は今こうして気付かない間に背後をとられた…まさか、本当に…!!)」 「うあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 団扇を抜き、振り回した。先程までの相手を負傷させない非殺傷風ではなく、鋭利な鎌鼬を発生させ、吉影目掛けて飛ばす。だが、吉影は身動ぎもせず黙って笑っていた。そして風が吉影の身体をバラバラに斬り刻もうとした瞬間――― 「―――ッッ!!!?」 鎌鼬は吉影の髪の毛一本そよがせることなく、彼の背後の木々を直撃した。枝や幹がスパッと切断され、バラバラに崩れ落ちる。 「どうだい?これでよく分かってくれたな?今、わたしは時間を0.5秒だけ飛ばしたのだ。」 吉影はニヤリと笑い、射命丸を眺める。 射命丸はかつてない戦慄に震えていた。吉影の放つ気配が、殺人鬼のそれに変貌を始めたからだ。 「(こ、この人間…!危険よ…危険だわ!!私の能力では、何をやっても避けられてしまう!!ここは兎に角三十六計…!!)」 射命丸の頭には、最早【スクープ】の文字はなかった。彼女は踵を返し、黒い翼で空気を叩き、一目散に逃げて行った。 ―――彼女がほんの少し冷静で、真実を探る努力をしようと思い立っていたなら、風の動きを読み彼の嘘っぱちを見抜くことができていただろう。 「…ふぅ……。」 吉影が安堵の溜め息をついた。なんとかあのパパラッチを撃退することに成功した。だが、彼はそれよりも心から歓んでいることがあった。 「……親父…?いる…んだな…?そこに…。いたんだな…この世に…」 吉影の背中には、一枚の写真が貼り付いていた。その写真から、老人が顏を出す。 「……吉影…そうじゃ、わしじゃ…わしじゃよ…!」 写真の老人、吉良吉廣は涙ぐみながら答えた。そう、さっきの【キングキリムゾン】の正体、それはは、彼のスタンド能力【アトム・ハート・ファーザー】で、射命丸のカメラに写って吉影を【写真空間】に隔離していたのだ。彼は写真から全身を出し、吉影の前に立つ。涙が滝のように溢れている。歓びが彼の皺だらけ顔をさらにしわくちゃにしている。 「親父…!本当に、親父なんだな…!!」 吉影も驚きと歓喜に目尻に涙を浮かべる。だが、今は手放しに感動できる状況ではない。涙を拭い、自分の父親に言う。 「親父、すまないが、再会の喜びに浸るのはまだ早い。ヤツに写真を持って逃げられてしまった。」 吉良吉廣は早くも点のように小さくなった射命丸のシルエットに目を向け、涙をゴシゴシと拭いて優しい口調で言う。 「吉影、安心してくれ。わしは…今度こそ、今度こそは…お前を、護ってみせるからな…」 彼は、出てきた写真の中に入り込み、写真の枠の外に隠れてしまった。 「………?」 吉影は写真を手に持ち、首を傾げながらも父親からの報告を待つ。ほどなくして、吉廣が写真の中に現れた。 「親父、一体何処に…?」 「おお、この世界に来てから、スタンド能力や幽霊の力が成長してな、以前わしが写った写真を行き来できるようになったんじゃ。そして…ほれっ!」 写真の中から、吉廣がなにかを吉影に手渡す。吉影はそれを受け取り、目を見開いた。 「こ、これは…ヤツが盗撮した写真じゃないか!!」 「そうじゃ。さっきヤツがわしの姿を撮影しておったが、逃げながら現像しておったようじゃ。その写真からヤツのウエストバッグを探ってやったわい。それにしても、この世界のカメラは凄いぞ。フィルム式じゃというのにその場で現像できるんじゃ。」 得意げに話しながら、吉廣が写真から身体を出す。写真の中にいた時とは違い、ちゃんと生前の身長に戻る。 「…親父…生きてたんだな…!?」 吉影は目に涙を浮かべ、たった一人の信頼する父親を見つめる。 「ああ、そうじゃよ…!いや、すでに死んでいるが…わしはこの世にいる…!そして、異世界に来てしまったというのに、こうしてお前と出会えた…!奇跡じゃ…よかった、本当によかったわい…!!」 憂いの本を絶ち、二人は改めて再会の喜びに浸る。 「ああ、よかった、本当に…」 二人は堅く抱擁し合う。 「…親父、幽霊なのになんで暖かいんだ…?」 「さあな、これもひとえに【愛】の成せる技かのう。」 「…よしてくれ、気持ち悪い。」 「ケケケ、心に染み入るわい。」 二人はしばらくそうしていたが、やがて抱擁を解いた。 「それにしても、よくわたしの爆弾を食らって生きていたな。一体何があったんだ?」 「それがのう、よく分からなかったが、ふと気が付くと巨大な日本屋敷の前に立っていたんじゃ。」 「日本屋敷?」 「そうじゃ、わしらの家より何十倍も大きいぞ。そこで庭師に追い回されて、逃げ回っていたら屋敷の主人と出会ってのう、【ここは冥界よ】と言われてな。」 「なにッ冥界!?ということは…」 「いや、それがな、その女が【まだあなたは成仏できてないから、私の管轄外ね。何処にでも好きに行きなさい。】と言われてしまってのう、この幻想郷に下りてきて、お前の気配を感じたから、探し回ってやっと今見つけたというわけじゃ。」 「そうか。とにかく無事でよかった。わたしの爆弾で親父を成仏させてしまっていたらと、気が気でなかったんだ。」 「ケケケ、愛しい一人息子を置いて地獄で隠居なんぞ、出来るわけがないじゃろう。父親に定年退職はないわい。」 二人は声をあげて笑う。と、吉影が話を変えた。 「ところで、ヤツから奪った写真だが、何故親父が写ったものは持って来なかったんだ?」 「ああ、それはヤツの住み処を探って、カメラを手に入れるためじゃ。わしのスタンドはカメラがないと何もできないからな。」 「なるほど。だが、その写真だけ残っていたら怪しまれたり、足がついたりしないか?」 「大丈夫じゃ、その心配はない。」 吉廣は写真の中に入り、 「ほれ、こうすれば…」 写真の縁をぐんぐんと写真の中に引き込み始めた。完全に縁を引き込むと、写真は完全に姿を消した。 「おお、これは凄い…」 吉影は写真があった場所に手を伸ばす。もちろん、何も触れない。 「どうじゃ、これなら安心じゃろう。」 空中に写真が現れ、吉廣が身体を出す。 「ああ、とても心強い。カメラを盗むとき、ついでにヤツの住み処も爆破してやってくれ。」 「ケケケ、それは面白そうじゃな。ヤツの悔しがる顔が目に浮かぶわい。」 吉廣がケラケラと笑う。だが、吉影にはその笑いが何処か不自然に思えた。親子の勘というやつだろうか、その表情と声がなにか自分自身を励ましたり、落ち込んでいるのを覚られないよう、無理にやっているように感じられたのだ。 「…親父?どうかしたのか?」 気にかけて吉影が尋ねる。 「ん?い、いや、何もないが…」 吉廣ははっとして弁解する。その様子からやはりなにかあったのだと確信したが、言いたくないことを無理に話させようとは思わなかったので、その話は流す。 「そうか、ならいい。」 「じゃあ、次は吉影の番じゃ。わしが戦闘不能になった後、仗助共とはどうなって、なにがあってこの世界に流れ着いたのか聞かせてくれ。」 「ああ、そうだな。まずは親父の携帯から……」 人里に向かって歩きながら、吉影は吉廣にこれまでの経緯を話して聞かす。 「(…そう言えば、この世界に来てから、敵と闘うことが多くなったな…)」 吉影は話しながら、ふと思った。 「(もともと、わたしは誰かと闘うことは、全くといって無かった…子供の頃から社会人になっても、口論すらしないよう常に気を配っていた。だが…)」 「(重ちーとかいう小僧、そして仗助達と会ってから、わたしは闘わざるをえない状況に追い込まれることが多くなった…しかし、それでも奴等とは三回闘ったきりだ…)」 「(だが、わたしはこの世界に来てからというもの、僅か三週間のうちに四度も闘った…この幻想郷の住人は、皆闘争心が強すぎる…何より、能力や超自然滴な力が平然とまかり通っている。外では誰も怪しまないのに、ここで能力を使えばすぐバレてしまう…この世界に、わたしの望む【平穏】はあるのだろうか…)」 ここまで考えた時、彼の脳裏を声がよぎった。 ―さあ…?でも…【安心】なんてない所よ…少なくとも…― 冷たい感覚が背筋を走る。 「(大丈夫だ…今までのトラブルは全て乗り越えてきた…恐れることはない)」 吉影は嫌な予感を振り払うい、吉廣に話を聞かせながら、人里へと帰っていった。 「(―――そうか、吉影、そうなんじゃな…)」 吉影が【振り返ってはいけない小道】のことを話したとき、吉廣は確信した。抱きしめたときに既に覚悟はしていたが、それでも涙を流さないで堪えるのは辛かった。 「(…お前も、わしと同じ…【魂だけの存在】になってしまったんじゃな…もうお前は…死んでしまったんじゃな…)」 彼の頬を、涙が伝った。 「――――――――――――な…なによ…これ…は…………」 射命丸は茫然と呟き、くずおれた。彼女の目の前には、夕陽に赤く染まった、屋根が吹き飛び、壁は無惨に砕け、焼け崩れてしまった彼女の自宅。彼女の宝物であり命の綱である印刷機は切り刻まれた後粉微塵に爆破された跡があった。今まで蓄えてきたネタ帳とフィルムは丹念に焼き捨てられている。いくつも持っていた予備のカメラと新品のフィルムは持ち去られたように残骸が無かった。 「………さ……ない…」 目に涙を浮かべながら、射命丸が呟く。彼女の周りに、烏が群がる。 「…許さないわ…あの外来人…!」 きつく噛み締めた唇から、血がサァッと流れる。 「許さない…絶対に…!アイツに、死よりも辛い苦しみを与えてやるわ…!私の手で、アイツを吊し上げ、晒し者にしてやるわ…!!」 目が、鷹のそれより遥かに鋭く、睨まれただけで凍り付くほど冷たい光を帯びる。それに呼応して、烏達が喧しく鳴き声をあげる。 「待ってなさい…川尻浩作っっっ!!!!」 無数の烏がバサバサと喚きたて、飛び去って行った。 ED♪ 石鹸屋 【二足歩行の天狗 walkin 】 次回予告 ―――――――――――― 「なによっ!!うっさいわね!この馬鹿っ!!」 「…馬鹿と言う方が馬鹿だとさっき言わなかったか?」 「う、うるさい!さっきのカエルみたいに氷漬けにしてぶち割ってやるわ!!【ホワイト・アルバム】!!」 ―――スタンド使いの氷精――― 「キチョーメンな性格でね おまえを殺「(バラ)」す前にちゃんと「DISC」をぬいてキチッとしまっておきたいんだ…おまえは一枚のCDを聞き終わったら キチッとケースに仕舞ってから次のCDを聞くだろう? 誰たってそーする おれもそーする」 ―――さらに現れるスタンド使い――― 「M16カービンライフル兵隊60名!アメリカ陸軍攻撃用ヘリ【アパッチ】四機!戦車七台!溶解弾砲台二台!弾丸中継衛星一機!何者も逃がさないッ!規律正しい我がスタンド 【極悪大隊】のこの戦場からはなあ~っ!!」 ―――ついに明らかになる【DISC】の存在――― 「あいつにな…言ったんだ、【どこへ行くんだ億泰】そうしたらあいつ…【兄貴について行くよ】なんて言いやがって…鬱陶しいから【おまえが決めろ】【億泰…行き先を決めるのはおまえだ】って言ってやったら、あいつ… 【杜王町に行く】っつって、消えやがったよ。まったく、俺が死んだ後も足を引っ張る、馬鹿な弟だ…。でもな…」 「あいつはなッ!たった一人の弟なんだよッ!!それを傷付けたお前を、外に帰すわけにはいかねえッ!!キサマは…ここで殺す!!」 ―――そして、相容れぬ者達の闘いは、幕を開ける!!全ては己の護るべき者のために!! 次回 ~吉良吉影は静かに生き延びたい~ 第⑨話 【⑨と兄貴と極悪大隊「(バッド・バタリオン)」】 お楽しみに!! ネタバレ ↓ ↓ ↓ これは嘘予告です
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――――――「この先か…もうすぐなんだな?」 「おお、すぐ近くのはずじゃぞ。あとは湖沿いに歩いて行けば、三十分ほどで対岸に着くはずじゃ。」 「そうか…ふぅ、やはり徒歩は疲れるな…。」 吉良吉影は額の汗をハンカチで拭う。 吉影と吉廣の親子は、霧の湖の近く、森の中を歩いていた。 「それじゃあ、わしは一足先に偵察をしてくる。何かあったら、写真に声をかけてくれ。」 「ああ、分かった。それと…」 吉影がやや声を落とし、感付かれないようそっと振り向く。 「分かっているな…アレの処分は頼んだ。」 「…ああ、任せておくれ。」 吉廣は写真から身を乗り出し、自分にカメラのレンズを向け、シャッターをきった。彼の姿は一瞬で消え、やや遅れてカメラから写真が吐き出される。その中にあるのは吉廣の姿。 「では、行ってくるぞ、吉影。」 「くれぐれも気取られないよう慎重に探ってくれ。ぬかるなよ。」 「分かっとるわい。安心して待っていてくれ。」 吉廣は写真から顔を出し、幽霊の浮遊能力を使ってフワリと森の上空へと舞い上がって行った。 「…これで成功しさえすれば、わたしは…だが…」 それを見届け、吉影は一人ごち、頭を振る。 「いや、大丈夫…大丈夫だ…安全を保証すると、しっかり明記されていたじゃないか…悪魔は約束を破れない…それに、この機会を逃せば、あと何年間も苦しまねばならない…何を恐れるというんだ…『運命』は、いつもわたしに味方してくれているのだ…」 頭に残る不安を振り払い、吉影はまた歩き始めた。 白目のない漆黒の眸が吉影の背中を見つめていた。 一羽の鴉が、一本の枝に留まっていた。鴉は目標の動きを主人に伝えようと、枝から飛び立ち、空へと舞い上がろうとした。だが… 「グギャッ!?」 鴉は何かに激突し、慌てて体勢を立て直す。原因となった物を探すが、そこには何も無い。 「…カァ~…?」 首を傾げ、今度はゆっくりと飛んでみる。 コツン またしても何かに当たった。嘴で何度かつつく。 コツッ コツッ 嘴で何度も確認して、やっと鴉は気付いた。何も無いように見える空間に、透明な壁があるのだと。そして、それが自分を閉じ込めるように上下前後左右に隙間無く並んでいることも。 そして、鴉がようやく自分の状況を把握した直後… 「グギャッ!?ギャ…」 鴉は包丁でメッタ斬りにされたように引き裂かれ、臓物を撒き散らして事切れた。 写命丸を撃退した翌朝、吉影は新聞を買いに出掛けた。あの文屋の様子を探るとともに、他の新聞社に吉影の事を記事にされていないか調べるためだ。 「…よし、ヤツの新聞は休刊だな…印刷機を塵にしてやったのだから当然か…」 吉影は店から出て安堵する。 「しかし、適当に買ってみたこの新聞…落ち着いた文章で好感を持ったから買ってはみたものの、なんだこの記事は?ほとんどが古いものじゃないか。」 彼が手に持って読んでいるのは『花果子念報』。姫海棠はたてとかいう天狗の記者(人里どころか外出すらあまりしないらしくかなり挙動不審だった)が自ら売っていたのでパラパラと流し読みして、あまり低俗な内容は無さそうだったから買ったのだ。しかし、買ったは良いもののいざちゃんと読んでみると、内容は昨日や一昨日のものは全くない。一番最近の記事でも、すでに生徒達の間で話題になって今はもう忘れられているような話ばかりだ。 「『幻想郷最速の天狗』だと?外では世界中の事件がリアルタイムで駆け巡っているというのに、こんな極小コミュニティの情報を何週間もかけて漁っているのか?それともこの新聞を選んだのがハズレだったのか…」 また店に戻らなければ、とぶつぶつ文句を呟く吉影。だが、次のページをめくった時だった、 「…ッ!!」 つまらなさそうに紙面を眺めていた吉影の目が見開かれた。 「こっこれ…は…ッ!?」 両手がワナワナと震え、新聞の握っていた部分がくしゃくしゃになる。吉影が今にも食い付きそうな表情で一心に読んでいるのは――― 「『紅魔館大遊技大会―優勝者は莫大な賞金―』」 贅沢に全面を使った、一つの広告。湖の畔にある洋館で催される遊技大会を知らせる物だった。 「…一、十、百、千…ああ…間違いないッ…!!ぴったりだ…『奇跡』としか思えない!!」 震える指先で0の数を数え、声を震わせる。 「これが『チャンス』だ!やはり最悪の時にチャンスは訪れた… これだッ…この『チャンス』をモノにすればっ…わたしはッ…!!外に帰れるっ!もう天狗の眼に煩わされることもなくなるッ!慧音を殺したいという衝動に悩まされることもないッ!」 吉影の両目が希望に輝く。 「わたしは…自由になれるッ!!やはり『運』は…この吉良吉影に味方してくれるんだッ!」 こう言ったわけで、彼は紅魔館を目指し人里から森を抜けて湖の畔まで来ていた。本当のことを言ったら止められそうなので慧音には 『香霖堂で外から持ち込んだ金目な物を売ったり、店に置いてある外の品物の使い方を教えたりして、金を稼いでくる。道案内は妹紅にたのんでおいた。三日間は帰らないつもりなので、その間の授業は予め作ったプリントを配布して自習にしてほしい。宿題の答え合わせも配布して各自でやらせてくれ。』 と伝えておいた。妹紅はつい昨日人里に来たばかりだ。彼女は五日に一回ほど慧音の家に顔を見せに来ることが分かっているから、三日間にわたって行われる遊技大会から帰るまでは嘘はバレないだろう。そして、終わって見事賞金を獲得してからなら、バレても問題はない。 「―――――ン?」 吉影が森を歩き続けていると、突如として視界が開けた。目の前に広がるのは、霧に覆われた広い湖。 「よし、森を抜けたな。あとはこの湖に沿って歩けば30分ほどで着くと言っていたが…本当なのだろうか…?」 吉影は湖を見渡す。霧に覆われているため大きさが全く分からない。霧の中に消えていく畔がどこまでも際限無く広がっているような感覚を与えている。 「…取り合えず、少し休憩しよう。水筒の水も汲んでおくか。」 吉影はしゃがみ両手で水を掬い、一口飲んだ。ひんやりとした感覚が疲れた身体を癒す。満足気に溜め息をつき、彼は竹製の水筒で水を汲もうとした。が――――― 「……?」 彼の手が、ピタッと止まった。 「これは……?」 吉影が凝視しているのは、異様な光景だった。こちらにゆっくりと流れてくる氷の塊。その中には―― 「なんだ…?カエルか…?何故こんな物が…、ッ!!」 何かが飛んでくる音。吉影は咄嗟にキラークイーンの脚でバックジャンプし、それを避ける。 ドスッ 一瞬前まで吉影がしゃがんでいた場所に、つららが突き刺さった。 「…誰だ…?わたしに何の用だね?」 スタッと着地し、つららの飛んで来た方向を睨みながら身構え、呼び掛ける。 「フフン、あたいの『きしゅ~』を避けるなんて、あなたけっこ~やるわね。」 霧の立ち込める湖上から、犯人は姿を現した。背中に氷の翼を持った、十代にも満たない少女が水面の上に浮かんでいる。 「…もう一度だけ訊いてやる。わたしに何の用だね?」 キラークイーンの目で油断なく観察しながら、吉影が言う。 「今ね、新しい必殺技を試してみたいって思ってたところなのよ。タダの人間じゃあすぐ凍り付いちゃって全然練習にならないから、ちょうどよかったわ。」 少女は腰に手をあてて威張って答える。 (そうか、コイツが噂の氷精…ならば、妖精と同じ方法で…) 吉影は構えを解き、警戒心を感じさせない姿勢をとる。もちろんキラークイーンは身構えたままにさせておく。 「あら、もう観念しちゃったの?つまらないわね~、せっかくぴったりの実験台を捕まえたと思ったのに。」 「…君…何のためにわたしを実験台にしようというのかね?」 「あったりまえでしょ!『最強』になるためよ!!」 「最強…?」 「そ~よ!あたいはもう『最強』だけど、最近は人間に負けちゃうこともあるのよ。だから、あたいはも~っと強くなって、ず~っと『最強』になるのよ!!」 ビシッと人差し指を吉影に向け、威勢良く言い放つ。だが、そんな彼女を見て、吉影は声をあげて笑い始めた。 「なっなによ!なにがオモシロいのよっ!!」 馬鹿にされたと思い、少女が声を荒げる。 「いや、君の言っていることが少し滑稽でね…」 「『こっけ~』?」 頭に鶏を思い浮かべ、首を傾げる氷精。 「君、確か『最強になる』と言ったな?」 「…そ~よ。それがどうしたっていうのよ?」 「…君は、『最強』になっただけで満足なのか?」 「?ど~ゆ~意味よ?」 「…お前、『最強』が一番スゴいと思っているのか?」 「決まってるじゃない!!『最強』が一番強いのよ、知らないの?さてはあなたバカねっ!」 妖精に馬鹿と言われてイラッときたが、吉影は話を続ける。 「…君みたいな木っ端妖精は知らないだろうし、知らなくても良いんだが…この世には、『最強』よりもスゴい物があるんだよ。」 「?『最強よりスゴい』?なによそれ?」 興味をそそられ、氷精が神妙な面持ちで訊ねる。 「『究極』…というんだがね…」 「『きゅ~きょく』?それが『最強』より強い物なのね!じゃああたい、これから『きゅ~きょく』になるわ!」 まだ成ってもないのにふんぞり返る氷精。さすが妖精、驚くほど単純である。 「…お前…、『究極』に成りたいか?」 「ええ、そ~よ。あたいは『きゅ~きょく』に成って、『最強』より強くなるのよ!」 「そうか、なら頑張るといい。…だが、『究極』の定義を知っているのか?」 「…ううん、知らない。」 しばらく考えた後、氷精が答える。 「どうなったら『究極』に成れるか知らないというのに、『究極』になろうというのか?」 「……………………………………」 さすがの妖精でも、自分の計画性のなさに気付いたのだろう、俯いて押し黙る。落ち込んだ様子の彼女を見て、吉影はやれやれと首を振る。 「…仕方ない、特別にわたしが『究極の定義』を教えてあげよう。」 「えっホント!?」 目を輝かせる少女。 「ああ、じゃあ言うぞ。よ~く聴いておくんだ。」 コクコクと頷く氷精の前で、吉影は即興で考えた文章を暗唱する。 「『ひとつ 無敵なり! ふたつ 決して老いたりせず! みっつ 決して死ぬことはない! よっつ あらゆる生物の能力を兼ね備え、しかも その能力を上回る! そして その形はギリシアの彫刻のように美しさを基本形とする。』」 朗読するかのようにスラスラと淀み無く言い切った。流石はD学院大文学部卒、常人にはできないことを平然とやってのける。 「さあ、覚えたな?暗唱してみせてくれ。」 「……………………………………………………………、えっ!!あっ、えっええっと…」 呆然としていた少女はハッとして、慌てて思い出そうとする。だが、全く言葉が出てこない。頭を抱えてうーんと考え込んでいる氷精を見て、また吉影はやれやれと溜め息をつき、懐から手帳と鉛筆を取り出す。 「…メモをあげよう。これを暗唱できるようになった頃には、きっと『究極』に近づいているはずだ。」それを聞いて、少女はガバッと顔を上げ、キラキラと目を輝かせた。 「ほっホント!?それを覚えれば、あたいは『きゅ~きょく』に成れるのねっ!」振り仮名を振って、メモを手帳から破り取り、氷精に投げて渡す。 「ああ、なれるとも。ガンバって覚えたまえ。ところで、ひとつ尋ねたい事があるんだが、この霧は君が発生させて…」 氷精が夢中になってメモを読んでいるのを見て、吉影は顔をしかめる。 氷精を放置し、吉影は湖に沿って歩き始める。 (さて…うまく戦闘を回避出来た…だが…) 彼はブルッと身体を震わせ、身を縮こめた。吐く息が白い。 「…意図していないにせよ、君はわたしの邪魔になる…消えてもらうぞ、氷精。」 キラークイーンの親指が、爆弾に変えたメモの起爆スイッチを押した。 ――――――――――――――爆弾が作動することは、なかった。 「――――むッ?何故だ?爆発音が…」 吉影が訝しげに振り返ると――― 「なッ…なんだとぉォォォォッ!!?」 氷精はいまだ一心不乱にメモを読み続けていた。その手に握っているメモは、表面を薄氷に覆われている。 (くそっ!まさか、真空以外にも我がキラークイーンの爆弾の『天敵』が存在したとはッ!…だが、ヤツは自分が攻撃を受けたことに気付いていない…無駄な『闘い』をするよりは、あと帰りの一度しか遭遇しない『天敵』を見逃すべきか…?) キラークイーンの撃墜射程距離と、氷精との距離を測りつつ、思案していた時だった。 「『銃は剣よりも強し』 ンッン~名言だなこれは。」 「ッ!!」 声のした方向を振り向くと、湖の畔に一人の男が立っていた。 「でも、『剣は拳(けん)よりも強し』とはあまり言わねーな。ダジャレ臭くて締まらないからか?」 カウボーイのような出で立ちの欧米人のその男は、流暢に日本語を話し、歩み寄ってくる。 「…お前、何者だ?見たところ、外来人らしいが…」 男の腰のホルスターに収納されているリボルバー拳銃に目をやり、吉影は問いかける。 「おうよ。アンタもそーみたいだな。」 「ああ、どういうワケだかこの世界に迷い込んでしまってね…。それはそうと、貴方は外来人である以前に外国人であるようだが…」 「ン?なんでこんなに日本語ペラペラなのかってことか?さあな、この世界に来た途端喋れるよーになっちまってよぉ。俺にもサッパリなわけよ。」 吉影は男の足運び、目線、表情をキラークイーンの目で観察する。 (こいつ…!一見ヘラヘラと喋っているだけに見えるが、目が全く油断していない…!!何者かは知らないが、恐らく敵か、少なくとも『敵対心を持っている』ことは間違いないッ!) (まさか、コイツも遊技大会に参加しようとここに来たのか?それならわたしを始末して勝率を高めようと考えるのも分からなくはない…ここはこちらの警戒心を覚らせず、確実なキラークイーンの射程距離に入った瞬間に…!) 「そうか、突っ掛かって悪かったな。この世界はなにかと物騒なもので、少し疑心暗鬼に陥ってしまった。」 吉影は肩の力を抜き、楽な姿勢をとる。警戒心を与えない、落ち着いたいつもの態度だ。 「いや、謝るこたぁねーよ。誰だってそうなるもんさ。特に日本人なら、この世界の『ヨウカイ』とかいうのに鮮やかな髪や目の色したヤツが多いからな、俺がそいつらの仲間だと思われても仕方ねーことだと思うぜ。」 男は歩み寄ることを止め、立ち止まった。 (くっ…もう少し距離を縮めなければならないのに…本当は相手から来てほしかったが、わたしの方から接近するしかないな…) ゆったりと相手に覚られないよう、足を運ぶ。 「あんた…行く当てはあるのかい?わたしはここから森を突っ切ったところにある人里でお世話になっているが…。もし寝床や食事に困っているのなら、案内してあげようか?お互い、この世界ではイレギュラーだ。似た者同士、助け合うのが当然とじゃないか?」 「ン~ン、それはありがたいね。さすがにいつまでもアウトドアってワケにもいかねーからな。調味料の持ち合わせも底をついちまったし、和食も食べてみたいって思ってたところだ。」 男は嬉しそうに笑う。その間にも、吉影は男との距離を詰めていく。 (よし、あと一歩…あと一歩近寄れば、確実にキラークイーンの射程内だ…) キラークイーンの指がポケットに伸び、『弾丸』を取り出そうとした時だった。 「……だが、遠慮しておくぜ。俺とお前さんは、ちょっとばかし『似た者』過ぎたみたいだからなッ!!」 メギャンッ!! 男の右手に、一瞬で拳銃が出現した! 「なッ!?」 銃口を向けられ、慌ててキラークイーンに防御態勢をとらせる。 (こ、こいつの目…わたしを見ていない!それに、あの拳銃…!まさか…!?) 「…お前…新手のスタンド使いか!」 男はスタンドの拳銃をくるくると回し、余裕をこめた目で吉影を眺める。 「そういやあ、お前さんの質問にちゃんと答えてなかったな。ホル・ホース、おれの名前だぜ…『皇帝』のカードを暗示するスタンド使いってわけよォ。」 「『皇帝』…?『暗示』…?タロットカードか?(そう言えば、承太郎のスタープラチナも由来はタロットカードだったな)」 「そのとーり、最近じゃあタロットカードと関係ないスタンド使いが増えてきたらしいけどな。」 ホル・ホースは視線をキラークイーンから逸らさず、まだメモを読み耽っている氷精に声を掛ける。 「お~いチルノよぉ、いつまでそんなもん眺めてんだ?」 声を聞き、チルノと呼ばれた氷精はハっと顔を上げる。 「あっホル・ホース!!また遊びに来てくれたの?」 チルノはホル・ホースの方を振り向き、吉影の姿に気付いた。 「あれ?さっきのおじちゃん!なんでホル・ホースと喋ってるの?もしかして友達?」 チルノに気付かれ、吉影は焦る。 (ま、まずいっ!この男、さっきの氷精と面識があるのか!片や天敵、片やスタンド使い…この二人と闘うのは、非常にまずいッ!!) 「いんや、今遭ったばっかさ。それとチルノ、このおっさん信用するんじゃねぇぞ、『悪い人』だぜ。」 「えーっ違うわよ、その人良い人よ!あたいに『きゅーきょく』を教えてくれたもん!」 「だったら、その紙切れ捨ててみな。一発で正解が分かるだろーぜ。」 「ッ!!」 目を見開く吉影の前で、チルノは文句を言いながらもメモから手を離した。メモはひらひらと落ちていき、水面に触れ… ドグオォォォォ!! 凍結が融けて爆発した。 (こいつ…キラークイーンの爆弾を見破った!?なんという男だ…!スタンド自体はチンケなナリだが、恐るべき洞察力…間違いなく実戦経験も豊富だっ!出来ることなら、闘わないで済めば最良だが…) チルノは突然の爆発にかなり驚いたのか、混乱している。 「なっなによコレ!?なんで紙が爆発するのよッ!」 「な?言っただろ?このおっさんがチルノ、おめーを爆破するために能力で攻撃したんだよ。」 「じゃ、じゃあ『きゅーきょく』は…」 「んなもんウソっぱちに決まってんだろぉ、お前騙されてたんだよ、コイツに。」 ホル・ホースが吉影をあごでしゃくる。チルノは吉影を睨み付け、怒りを露にする。 「よくもあたいを騙したわね!『最強』のあたいを怒らせたらどうなるか、頭が破裂するくらいみっちり教えてあげるわ!!」 「ぐっ…!!」 吉影は歯ぎしりして後ずさる。 三人は臨戦態勢にはいり、チルノは湖上、吉影はチルノの正面、ホル・ホースは吉影の左側で、それぞれ身構える。 「いいか、おっさんよぉ…おれがお前を倒すのは、こいつ…チルノを爆破しようとしたことだけが理由じゃねぇ…」 ホル・ホースがジャキンッと『皇帝』の銃口を向ける。 「おれぁ生まれてからずっと世界中旅して、いろんな悪党を見て来た…だから悪い人間と良い人間の区別は『におい』で分かる!」 ホル・ホースは顔をしかめ、鼻をつまむ。 「こいつはくせえッ!!ゲロ以下のにおいがプンプンするぜッーッ!!こんな悪には出会ったことがねえほどなァー!!」 その言葉に、吉影はピクリ、と眉を動かす。 「ほう…数分前に出会ったばかりの男にそこまで言われるとは、心外だな…?わたしが君の御友人を、『始末』しようとしたからかね?だが、イキナリわたしを攻撃してきたのはヤツだ。いくら外ではわたしは善良な会社員だったとしても…妖怪変化や魑魅魍魎の類が我が物顔で蔓延っているこの世界では、相手が例え無邪気な少女であったとしても…確実に打ち倒し『安全』を確保する…そう考えることを『悪』だと断定できるのか?」 吉影の台詞に、ホル・ホースは唾を吐き捨てる。 「『善良な会社員』だと?ちがうねッ!!てめぇは生まれついての悪だッ!!言い表しようのない汚らわしい『におい』がしやがるぜッ!」 吉影はホル・ホースの『皇帝』と湖上のチルノとに注意をはらい、キラークイーンに胸ポケットに手を伸ばさせる。 「女の血だッ!トンでもなく生臭ぇにおいだ!!その手で何人の女を殺してきたっ!?」 吉影の表情が敵意に歪む。 (くそっ!この男…!!やはり生かしてはおけない!!わたしの『本性』を即座に見透かすとは、最悪の『敵』に他ならないッ!…こいつとは、闘わざるを得ない!!) 「おれは世界一女にはやさしい男なんだ!!世界中にガールフレンドがいる!女にうそはつくが女だけは殴ったことはねえ!ブスだろうが美人だろうが才女だろうが馬鹿だろうが女を尊敬しているからだ!」 ホル・ホースも冷酷な殺し屋の目付きで吉影を睨む。 「貴様はッ!女の敵だ!!『銃は拳(けん)より強し』っ!!てめぇはこのホル・ホースが直々にぶっ殺す!」 『皇帝』のハンマーを起こし、吉影の眉間に照準を定める。 「あたいね、ど~しても一回人間に文句言ってやりたかったことがあるのよ!」 チルノは闘争心をたぎらせて吉影を威圧する。 「なんで『女』『犬』『米』『青』で『ようせい』って読むのよッ!!1つも音合ってないじゃないのッ!!やってられないわッ!くそっ!くそっ!」 「……………………………」 吉影、ホル・ホースの二人が間の抜けた目付きでチルノの方を見る。 「……あれは『女』『犬』『米』『青』じゃなくて、『妖しい』の『妖』と『精霊』の『精』なのだが…?」 「………………うっうるさい!!国語の教師かっ!!」チルノは顔を真っ赤にして逆ギレする。 啖呵をきり終わり、戦闘が始まった。 「氷符『アイシクルフォール -easy-』!!」 最初に攻撃したのはチルノだった。スペルカードを掲げ宣言すると、物凄い数の氷の弾幕が襲って来る。彼女の攻撃と同時にホル・ホースはバックジャンプで吉影との距離をひらく。 「ぐっ…!キラークイーン!」 胸ポケットの中の物を取り出すのは諦め、キラークイーンに防御の態勢をとらせる。 ゴオオオオォォォォォ!! 氷の弾幕は轟音と共に吉影に迫り――彼の横を通りすぎていった。 「……………………………………………………………は?」 チルノを始点に展開される氷の弾幕は、吉影の両脇を通過するだけで、全くダメージは無い(しいて言うならかなり寒いことぐらいか)。さらにチルノが追加弾幕を撃つこともなければ、弾幕が吉影に向かって横薙ぎに迫って来るわけでもない。 「…なんだ、このスペルは…?全く意図が見えない…。妖精は総じて馬鹿だとは聞いたが、これもそれの表れなのか?…いや…ッ!」 吉影は自信満々に腕組みして自分を眺めるチルノを観察する。 「あの様子…やはりなにか考えがあるッ!だがいったい何を…、ッ!?」 しまった!と吉影はホル・ホースの方を見る。氷の弾幕に遮られ、彼の姿は全く見えない。 「甘くみたな !!やはりてめーの負けだッ!」 氷の弾幕の向こうで、『皇帝』が火を噴いた。弾丸が氷弾幕の間を抜け、吉影を襲う。 「なるほど…いかにも防御に適さなそうなあの男を、氷の弾幕でわたしから隔離し、得意の弾幕戦に持ち込む…と言うわけか…だがッ!」 キラークイーンが腕を振り上げる。 「これしきの弾丸、叩き落とせないとでも思ったか!!この五月蝿い蝿共を払え、キラークイーン!!」 キラークイーンの腕が弾丸を叩き落とそうと振り下ろされた。だが―― 「なにィッ!?」 キラークイーンの拳は空しく空を切った。弾丸が軌道を曲げて迎撃を避けたのだ。 「弾丸だってスタンドなんだぜ~っ?オレをナメきってそこんとこを予想しなかったあんさんの命とりなのさぁー!」 ボグォォォ!! キラークイーンの脇腹に、エンペラーの弾丸が命中した。 「ぐあっ…!」 吉影の脇腹に穴が開き、口から血が滲む。 「なるほど…軌道を曲げて弾幕の間を縫って撃っていたのか…しかし…!」 まだこの程度のダメージで彼はダウンしたりはしない。吉影も反撃に出る。 「甘く見ているのは貴様だッ!我がキラークイーンが近距離パワー型スタンドだからと、油断するんじゃあないぞ!」 キラークイーンが吉影の胸ポケットから取り出したのは、ドングリ型の拳銃弾。彼の親父が外の道具の使い方を教えた礼にと香霖堂店主からもらった物だ。 「銃弾を『爆弾』に変えてッ!」 ホル・ホースのいる方向に銃弾を撃ち込む。銃弾は小石とは比べ物にならないほどの速さと精密さで氷の弾幕にぶつかり、爆発した。だが―― 「ぐあぁぁぁッ!?」 爆発によって発生した膨大な熱が、鏡面のような氷に反射され、吉影を焼く。 「くそッ!この氷の能力、予想以上に相性が悪いッ!」 キラークイーンを盾にして熱線のダメージを軽減し、曲がりくねりながら迫る『皇帝』の銃弾を叩き落とす。 「しかも、チルノ自身はがら空きだと言うのに、このセコいスタンドのお陰で反撃ができないッ!退路も断たれてしまった…!こいつら、お互いの弱点をカバーし合っている!くそっ!このままでは埒が明かないッ…!」 銃弾を摘み取って潰し、キラークイーンが左手を空に掲げる。 「シアーハートアタックッ!!」 キラークイーンの左手の甲から、一発の爆弾戦車が放たれた。 「目標はこの弾幕の向こうにいる男だッ!一片の骨肉も残さず『始末』しろッ!」 シアーハートアタックはギャルギャルとキャタピラで空を掴み、氷の弾幕へと突っ込んで行く。 「コッチヲミロォ~」 低温であるため爆発することもなく、パワフルに弾幕を突破しホル・ホースの目の前に現れた。 「なっなんだぁ~コイツっ!?チルノのアイシクルフォールを難なく突破しやがった!!」 慌ててエンペラーを乱射し、シアーハートアタックを撃破しようとする。だが、勿論こんなヘナチョコ弾ごときでは掠り傷一つつかない。さらに、着弾の衝撃でシアーハートアタックの体表の温度が上がり、爆発した。 ドグオォォォォォォ!! 「うおおおおおおおおぉぉぉぉッ!?」 氷の反射が今度は仇となり、爆風と熱線が無駄なくホル・ホースに襲い掛かる。シアーハートアタックからかなり離れていたので、致命傷には至らなかったが、軽度の火傷を負ってしまった。 「今ノ爆発ハ人間ジャネェ~!!」 爆炎の中からシアーハートアタックが飛び出る。 「くそっ!このスタンド、まだパワフルに元気いっぱいに向かって来やがるッ!!」 ギャルギャルと土を抉りながら迫って来るシアーハートアタックを見て、ホル・ホースはチルノに向かって叫ぶ。 「チルノぉ!!アレをやるぞッ!」 それを聞き、チルノはにんまりと笑う。 「やっとアレを試せるのねっ!腕が高鳴ってくるわ!!」 チルノはホル・ホースのいる場所の近くの水面に氷を張り、自分の側まで道を作る。 「よおっ~とぉ~!」 ホル・ホースが氷の足場に飛び乗り、チルノの下へと走る。追跡して来るシアーハートアタックを無視して、走りながら吉影を狙う。 「クソッ!あのスタンド使い、湖上に逃れたか!」 チルノを狙撃しようとしていた吉影は、斜め前方から襲い来る何発もの銃弾を爆弾で撃墜する。乱反射する熱線が全身を焼くが、今度は威力を抑えていたためダメージは少ない。 その間に、ホル・ホースはチルノの側まで来た。 「今だチルノッ!アレをやれッ!!」 「分かったわ!」 アイシクルフォールを仕舞い、他のスペルカードを取り出す。 「凍符『パーフェクトフリーズ』!!」 アイシクルフォールが解除され、辺り一帯広範囲に氷の弾幕が展開される。かなりの高密度弾幕だ。 「ムッ!?」 視界が開け、吉影が辺りを見渡すと、湖の一帯が無数の氷に埋めつくされていた。吉影の周りにも拳大ほどの氷が浮かんでいる。 「コッチヲミロォ~」 シアーハートアタックは氷に阻まれ、身動きが出来ない。温度も低いので爆風することも出来ず、ただ空中に浮かんでいるだけだ。 「しばっ!!」 キラークイーンが氷に裏拳を見舞う。が、氷はひびが入るだけで微動だにしない。 「なるほど、わたしの動きを封じた、というわけか。確かに、これでは身動き出来ないな…。これだけ広範囲に反射物があると、閃光弾も使えない…なかなかハードな状況だな…。」 吉影は苦笑いを浮かべ、シアーハートを戻し、打開策を探る。 「ちょっと!なんでホル・ホースの見えない弾幕が当たらなかったのよ!」 「それがなぁ~チルノよぉ、あの悪党、俺の弾幕が見えるんだよ。」 「ええっ!?なんで?あたいには何も見えないのに!」 「ヤツは俺とおんなじタイプの能力を持ってるんだよ。この世界でお目にかかれるたぁ思ってなかったけどな。だからヤツには俺の弾幕が見えるし、同じように俺はヤツの能力が見えるってわけさ。」 チルノはしばらく頭にハテナを浮かべていたが、ピーンッ!と何かをひらめいて嬉しそうに言う。 「分かった!あたいそのお話知ってるわ!『裸の王様』っておとぎ話よね?馬鹿には見えないってウソを言ってたけど、本当は頭の良い人には見えないんでしょ?やっぱりあたいったら天才ね!」 「…うん、もうそんな感じで良いぜ…」 話し終えると、ホル・ホースはエンペラーを乱射する。弾丸は氷の間を縫って吉影に迫る。 「くっ!邪魔だッ!」 キラークイーンが防御の邪魔になりそうな近くの氷を手当たり次第に爆弾に変え、爆破していく。消滅するだけの威力に抑えているため、熱線は反射しない。間一髪のところで防御が出来る程度のスペースを確保し、銃弾を迎え撃つ。 「しばっ!!」 曲がりくねって全方向から襲って来る弾丸を、殴り、叩き、摘み、潰す。 「どうしたァ!?威力も弾速もガタ落ちだぞッ!」 見事全弾叩き落とし、キラークイーンに拳銃弾を構えさせる。 「これしきのことで、わたしの反撃の手段を奪ったと思うのは大間違いだッ!!」 照準を定め、銃弾が発射された。パーフェクトフリーズの隙間を縫って、チルノに爆弾が迫る。チルノは身じろぎ一つしない。銃弾を遮る物も何も無い。 「勝った!!死ねッ!!」 キラークイーンが爆弾のスイッチを押そうとした時だった。 ギュイン! バヂッ!ギュン!! ギュイン!ギュン!! 「…なんだこの音は?何の音だ!?」 チルノの周りで火花が散る。 「フフフ、あたいのやっとあたいの必殺技を試すことが出来たわ!」 チルノは心底嬉しそうに笑い、得意顔で話し始める。 「あたいは『最強』だから、『最強』の冷気で綺麗な氷を創ることが出来るのよ!『最強』で『天才』でしかも『げ~じゅつてき』!!あたいったら『最高』ねっ!!」 「………………………………… ………………………………… ………………………………… ………………………………… ………………………………………………… …………………………………………………………………………………」 「『何言ってるんだ?』って聞きたそうな表情してんでおせっかい焼きのホル・ホースが説明させてもらうがよ! 超低温は『静止の世界』…低温世界で動ける物質はなにもなくなる!全てを止められる! チルノの『パーフェクトフリーズ』が最強なのはそこなんだよ! 爆走する機関車だろうと止められる!荒巻く海だろうと止められる! そして、チルノはその冷気で水や水蒸気を丁寧に凍結させて、純度の極めて高い氷を作っていたのだ!見えないか?止まった水蒸気が見えないか?よく見ろよ!」 「なにィッ!?」 吉影が驚愕の表情を浮かべる。 バヂッ!ギュン!ギュイン!ギュン! 「『弾丸』だ…!これは空中で『弾丸』が跳ね返ってる音だァー!!」 ホル・ホースが最後に締めくくる。 「『パーフェクトフリーズ ジェントリー・ウィープス!(静かに泣く)』 すでに氷の壁を作っていたのだッ!!」 だが、吉影は狼狽えず冷静に行動する。 (しかし、甘いッ!いくら銃弾を防いだからと言って、わたしの『爆弾』は無効化出来ないッ!) 「キラークイーン!起爆しろッ!」 キラークイーンが右手のスイッチを押した。だが――― 「クソッ!まただ!」 爆弾は作動せず、氷の壁の間をビリヤードのように駆け巡っている。 「…だが、何故だ…?いったいどうやって亜音速で飛び回る銃弾を…!?」 ホル・ホースがチッチッと指を振り、解説を始める。 「『昇華』…ってあるよな?固体が液体に成らずそのまま気化したり、その逆だったり…北国とかで樹木がキレ~に氷の結晶で覆われたりしてるのがそれだ。同じようにッ!この湖の霧を一瞬で『昇華』させて、銃弾の表面を氷結させたっつ~わけよぉ!!チルノから近い場所なら、空気を含まない純粋な氷を作ることが出来るッ!アンタの爆弾も全部無効ってことだ!」 「ぐっ…!」 「さあ、説明は以上だ!チルノッ!」 「オッケー!!」 バッギィィーン!! 「なっなにィ~ッ!?」 氷の壁から銃弾が撃ち返された!! 「マズイっ!解除しろォッキラークイーン!!」 だが、爆弾を解除する前に氷結が解除され、起爆した。 ドグオオオオォォォォ!! 吉影の目前で爆発が起こった。 「ぐおおおおおぉぉぉぉ!!」 氷の壁で増幅された爆風と熱が吉影を襲う。 「危なかった…あと一メートル手前で爆発していたら…!」 吉影はなんとか持ち直し、今度は接触起爆型の爆弾を構える。 ホル・ホースはエンペラーを引っ込め、ホルスターからリボルバー拳銃を抜く。 「しばらく使ってなかったが、いっちょコイツに活躍してもらおうか。」 吉影に狙いを定め、右手の親指をハンマーに掛けて、左手も添える。 その様子を見ていた吉影は、疑問を口にする。 「あの男…スタンドを引っ込めて拳銃を抜いた…?スタンドの射程外だからか?それに、奴のあの構え…」 ホル・ホースの左手が通常とは違った位置に添えられているのを見て、吉影は訝しがりつつも、キラークイーンに防御の構えをとらせる。 「くたばりやがれッ!」 ホル・ホースはファイングショットと呼ばれる、左手の指でハンマーを起こし、右手の指で引き金を引く方法で連射した。 「むッ!?」 リボルバーらしからぬ連射に吉影は軽く驚いたが、 「馬鹿なっ!この弾幕の中を只の銃で狙撃など、出来るわけがない!万が一わたしに届いたとしても、通常の弾丸程度なら難なく受け止められるッ!」 キラークイーンの目で銃弾を睨む。案の定、弾丸はパーフェクトフリーズに激突した。しかし、予想外の事態が起こった。 「なにッ!!!?」 あれほど強固に固定されていた氷の弾幕が、銃弾の追突を受けて弾き飛ばされたのだ。 「言い忘れていたけど、あたいの『パーフェクトフリーズ ジェントリー・ウィープス』は時間が経つと『融けて』滑り始めるのよ!」 チルノが『どうだ!!』と胸を張って言う。 銃弾は氷を弾き飛ばし反射され、飛ばされた氷と共にさらに次の氷、その次の氷…と、ねずみ算式に弾幕を突き動かす。あっちでぶつかり、こっちで衝突し…最初たった数発だった銃弾が乱反射し、何百発の不規則な弾幕と共に向かって来る! ギュイン! バヂッ! ギュン!! ギュイン! ギュン!! 「キラークイーンッッッ!!」 キラークイーンが両拳で弾幕を迎え撃つ。 「しばばばばばばばばばばばばばばばば ばばばばばばばばばばばばばばばばば ばばばばばばばばばばばばばばばばばばば ばばばばばばばばばばばッッッ!!!!」 全方向から襲い掛かって来る弾幕を叩き潰し、爆破する。最早火傷するなどと言っていられない。鋭利な氷が吉影の身体中を切り裂く。血が噴き出す。全てのスタンドパワーを振り絞り、ギリギリのところで致命傷は避け、全弾叩き落とした。 「ぜぇ…ぜぇ…ハァ…ガフッ…」 (し、しまった、体力が…!) 「お~ブラボ~!」 「ぶらぼ~!!」 疲労困憊している吉影を見て、ホル・ホースとチルノが感嘆する。 「だが…甘いぜッ!オッサンよォ!!」 ドスッ! 吉影の身体が、ビクンと震える。 「ぐあっ…あ…ああ…!?」 吉影は苦しげに嗚咽をあげ、ガクガクとくずおれる。その背中には、鋭利な氷が突き刺さっていた。 「な、何故…?全て、は、弾いたはず…」 首を回し、背後を確認する。そこにあったのは、人間の掌ほどの大きさの浮遊する物体。 「『マンハッタン・トランスファー』…弾丸中継衛星のスタンドさ。ソイツでおめーの弾き飛ばした氷の破片を反射させたってわけよ。」 ホル・ホースの額から円盤状の物がはみ出ているが、帽子で隠れて吉影には見えない。 「ぐっ…ぐおおお…」 最後の力を振り絞り吉影は立ち上がる。その様子は脇腹の傷や背中に刺さる氷だけでは考えられないほど弱々しい印象を受ける。 「フフフ…効いてきたみたいね…」 チルノがしてやったりと笑う。 「どうした悪党、随分と寒そうじゃねーか?」 ホル・ホースも笑い声をあげる。 「うっ…ううっ…!」 吉影は身を縮こめて白い息を吐く。ビタッと鼻の穴が凍りつく。 「呼吸の湿気で鼻の穴がぴったりくっついて!」 手で鼻に触れてしまった。 ビシッビシ 「ゆ…指まで…は…鼻に!」 「そりゃあ、あれだけ運動したんだからなぁ~!息があがるのも当り前だぜ~ッ!」 唇も端から凍りくっついていく。 ビシビシ 「ウッ!」 ビシビシ 「…ま…まずいィッ!湿気で唇までが…!! 寒いとか言うよりもこのままだと、こ…呼吸ができなくなってしまうゥッ!」 「いいえ!息が出来なくなるとか言うよりも先に、氷漬けにしてあげるわっ!!」 吉影の身体が足元から氷に覆われていく。 「ぐおおおおおぉぉぉぉ…!!」 足を完璧に固定され、身動き出来なくなる。キラークイーンに削らせるが、瞬く間に膝まで分厚い氷に覆われてしまった。 「この霧の湖は常に湿度が高い上に、お前が起こした爆発のお蔭で、かなりの水が蒸気になったからな!あぁ~っと言う間に人の彫刻の出来上がりだ!!」 「そしてっ!」 チルノがパチンと指を鳴らす。 「これでだめ押しよっ!!」 パーフェクトフリーズが解除され、解凍された水が吉影に降り注ぐ。水は一瞬で凍り付き、空気を含まない氷となって吉影の全身を包む。 「ぐあああああぁぁぁ…!!」 口も凍らされ、悲鳴を遮る。数秒後、吉影は巨大な氷塊の中に閉じ込められ、動かなくなった。瞬き一つせず、時間が止まったかのように。 「やった…!やったわっ!!あたいとホル・ホースの作戦、『パーフェクトフリーズ ジェントリー・ウィープス』が成功したわっ!!」 チルノが歓喜して飛び回る。 「ああ、お前の『氷の弾幕』とおれの『見えない弾幕』が組めば、どんな妖怪でも勝てる!俺たちは『最強』のコンビだ!」 ホル・ホースも楽しそうに笑う。 「ええ、そうよ。あたいたちは『最強』の二人組よ!あたいは誰にも負けないわ!これであの紅白にも黒白にも勝てる!フフフ、覚えてなさい二人とも…!ギッタンギッタンのケチョンケチョンにして、『最強』のあたいを馬鹿って言ったことを後悔させてあげるわ…!!」 チルノが闘争心を燃やし、『最強』と崇め讃えられる自分を夢想していた時だった。 ドグオオオオオォォォ!! 地鳴りがするほどの大爆発が巻き起こり、湖の水面が大きく波立った。 「うおおおおおぉぉぉ!?」 「なっなによこの音は!?」 ホル・ホースは氷の足場から落ちないようバランスをとり、チルノは爆発の起こった場所を見る。 「こ、こっちって、あの氷漬けの外来人がいた場所じゃ…!」 もうもうと立ち上る粉塵で、吉影の姿は確認出来ない。 ドドドドドドドドドド… チルノとホル・ホースは固唾を飲んで見守る中、土煙は徐々に薄れ… 「う、うそ…なんで…っ!?」 「じょ、冗談だろ…!?」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド ユラリと吉影が煙の中から姿を現した。なおも衰弱した様子だが、しっかりと立ち上がり、二人を睨み付けている。 「おいおいおいおいおいおいおい、なんでだぁ!?お前の爆弾は空気が無ければ爆発しないんじゃなかったのかァ~ッ!?」 ホル・ホースが慌てふためいて叫ぶ。 「…氷自体を爆弾に変えれば、酸素は外側にいくらでもある。」 「…あっ!!」 しまった!とホル・ホースが声をあげる。 「ちょっと!どういうことよホル・ホース!!あなたアイツを氷漬けにすれば大丈夫って言ってたじゃない!!なんで爆弾が使えてるのよ!」 「い、いや、すまねえおれの間違いだった…で、でも、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ?後で思う存分一緒に遊んでやるからっ、今はとにかくヤツを倒すことに専念しようぜっ。なッ?なっ?」 チルノに責め立てられ、ホル・ホースはバツが悪そうにしながら必死になだめる。だが、そんな二人には話し合う時間さえ与えられることはなかった。 「『覚悟』とは!!暗闇の荒野に!!進むべき道を切り開く事だッ!」 ハッと二人は自分たちの状況に気付く。 「ま、マズイッ!パーフェクトフリーズがほとんど残ってねえぞ!」 吉影を氷漬けにするため解凍したので、弾幕の密度は非常に薄く、スカスカになっていた。 「や、野郎まさか…このために、【あえて】氷漬けになったって言うのか…!?」 ホル・ホースがギリッと歯を噛み締める。 「はっきりと…確実に今度は見える…」 キラークイーンが吉影の胸ポケットから取り出したのは、一発のライフル弾。射程距離、威力共に拳銃弾の比較にならない物だ。 「ヤバいッ!奴め、あんな隠し玉まで持ってやがった!」 キラークイーンが残り少ない弾幕の間を縫い、チルノに狙いを定める。標的との距離から銃弾の軌道を計算し、角度を微調整する。 「そこだーッ!!たしかに進むべき道がッ!暗闇に見えるぞッ!」 キラークイーンの親指が接触起爆型ライフル弾を弾き出したっ!弾丸は音速で飛翔し、チルノを貫通爆砕しようと迫る! 「チルノぉぉぉッ!!氷の壁で防いでも駄目だっ!さっきのように凍らせろォ~ッ!!」 ホル・ホースの叫びに、チルノがハッと顔をあげる。 「凍符『パーフェクトフリーズ』!!」 チルノの周囲が急激に冷却される。だが―― (む…無理よ…) チルノの小さな身体がガタガタと震える。 (無理よ…!そんなこと…!だって、見えない速さの弾を凍りつかせるなんて…!!) 彼女は既に自信を失いかけていた。『P・F・G・H』が破られ、自身の『最強さ』が揺るがされたのだから。それに、今度はさっきとは状況が違い過ぎる。前回は『P・F・G・H』で減速させ、反射中の弾丸を時間をかけて凍結できた。しかし、今回は違う。音の速さで迫り来る銃弾を、『P・F・G・H』で反射することなく、しかも空気を含むことなく、瞬時に凍りつかせなければならないのだ。 (駄目…やっぱり無理よ…!だって…だって!難し過ぎるもの!!) 目の端から、涙が零れる。頬を雫が伝う。彼女の中に、もはや闘争心は残っていなかった。だが、その時―― 「チルノぉッ!!」 ホル・ホースの強い口調に、チルノはビクッと彼を見る。 「チルノッ!忘れてねえだろ?俺たちの『約束』をよぉ!!」 「やく…そ…く…?」 ホル・ホースに険しい目付きで睨まれ、チルノは少し萎縮する。 「俺たちがコンビを組んだ時に『約束』しただろうが!?俺たちは…!『最強』のコンビになるってよォッ!!」 「はっ……!……………………………………………… ―――――――――――――― ―――――――――――――― ――――――――……………………… 「―ゼェ―ハァ――な…んで…なんで…」 「……ゲホッ……ゼェ……ゼェ………」 「なんでっ!一発も反撃しないのよッ!?…う…撃てば良いじゃない…!…その、『見えない弾幕』でッ!!」 チルノは時間切れのスペルカードを握り締めて、声を荒げる。涙声で、瞳を潤ませて一人の男を睨み付ける。 「…ぐっ…ゲボッ…!……」 男―ホル・ホースは血を吐き出し、ガクリとくずおれる。切り傷だらけの腕で、腹の傷を押さえる。たちまち手のひらが血にまみれる。 「…なんで…かっ…て…!?…」 ホル・ホースはフッと笑い、チルノを見据える。 「そうよっ!なんであたいを撃たないの!?あたいの弾幕を全部撃ち落とせるんだから、それくらい簡単でしょっ!?」 チルノは悔しさにポロポロと涙を流し、ホル・ホースの目を見つめ返す。 「フッ…バレちまった…か…」 ホル・ホースは傷だらけの足に力をいれ、震えながらも立ち上がり、チルノの瞳を見つめる。 「おれは…女は撃たねえ…!」 「……ッ!!…」 チルノが頬を赤く染める。初めてだったのだ、妖精だからいつも虐げられ、どうせ復活するからと容赦無く惨殺される自分の身を案じ、情けをかけてくれる者に出会ったのは。そして、自分を自然の権化としてではなく、『女』として扱ってくれる者に出会ったのは。 「なっ…なによッ!手加減してたって言うの!?馬鹿にしないでっ!!あたいは『さいきょー』なのよッ!!そのあたいが、あんたみたいなただの外来人に…!!」 気色ばむチルノに、ホル・ホースはフフッと微笑む。 「なっなによっ!!なにがおもしろいのよッ!!」 馬鹿にされたと思い、チルノが怒気を含んだ声をあげる。 「…チルノ…っつったっけか…?」 「…そ、そうよっ…」 チルノはゴクリと唾を飲む。 「お前…本当に…『最強』…に…成れるぞ…。」 「…え………?」 チルノはまたも驚く。いくら自分が『最強』を自称しても、誰も彼もが鼻で笑うだけで、本気にしてくれる者などいなかった。そして、それに怒って勝負を挑んでも、返り討ちにされ、満身創痍で倒れ伏す彼女に嘲笑だけ投げ掛けて去っていくのだ。 「ホントに…ホントに、あたいが『さいきょー』だって、そう思ってくれるの…?」 「ああ…ただし、一人では無理だな…。」 「『一人』…で…は…?」 チルノが頭に?を浮かべる。 「だがしかし…『二人』なら…!間違いなく『最強』のコンビになれるぜ…!!」 チルノはホル・ホースを問い詰める。 「どうしたら…あたいは『さいきょー』に成れるの?…」 チルノの視線と、ホル・ホースの視線が、空中で交差する。ホル・ホースが口を開いた。 「おれと…コンビを組めッ…!」 ――――――――――― ――――――――― ――――…………… 「…………あ…あたいは…………」 チルノの瞳に、光が宿る。迷いの無い目で見えない弾丸を見据える。 「あたいはッ!!『最強』だッ!!」 チルノの身体から膨大な冷気が発せられ、空気中の水分が凝結する。風速冷却されたライフル弾の表面を、一瞬で完全凍結させ、空気を遮断する。『P・F・G・H』の残骸を操り、弾丸の軌道上に配置する。銃弾は氷の壁に衝突し、爆発することなく明後日の方向に飛んでいった。 「…や…やった…やったわっ…!!」 チルノが歓喜に身体を震わす。だがその時、 「チルノぉッ!!余韻に浸るのはまだ速いぜッ!!」 ホル・ホースがエンペラーの銃口を吉影に向ける。 「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉッ!!」 キラークイーンが氷の残骸を握り、大きく振りかぶる。 「『始末』しろぉぉぉ!!キラークイーンッ!!」 氷の塊が豪速球で向かって来る!! 「あの野郎ッ…!!小細工しやがって…!!」 ホル・ホースはエンペラーの引き金を引いた。撃つ、撃つ、撃ちまくる。 「離れた場所の氷は余程注意しねーと『気泡』ができちまうっ!あの『爆弾』は凍結させても中に『空気』があるから防ぐことはできねーッ!!」 エンペラーの弾丸が吉影の身体を穿つ。しかし、距離が遠すぎるため威力が足りず、肉にめり込むだけだ。 「チルノぉッ!!『P・F・G・H』で止め……、ッ!!」 エンペラーを乱射しながらチルノに叫んだが、ハッと気付く。 「しまった!さっきライフル弾を凍結させるのに夢中で『P・F・G・H』を追加出来なかった!!あんの悪党ッそれも計算して先に銃弾を…ッ!!」 爆弾は『P・F・G・H』の名残の間をすり抜け、チルノに迫る。だが、彼女の目に怯えは欠片も無かった。 「馬鹿ねっ!あたいの作った氷よ!!自由に解除出来ないとでも思ったのっ!?」 チルノの一睨みで、氷は呆気なく空中で融解した。だが― 「なんだとぉ~ッ!!」 水は無重力空間にあるかのように球体のまま、チルノに向かって飛んで行く。 「甘かったな!我がキラークイーンが『爆弾』に変えた物は、すでに『爆弾』として固定されているッ!!融かしたところで四散することはないッ!!」 全身に銃弾を浴びながらも、吉影が勝ち誇って吠える。 爆弾がチルノに迫る。チルノは茫然と目を見開いている。 ホル・ホースの悲痛な叫びが湖上に木霊する。 「チルノぉぉぉ~ッ!!」 チルノはただ向かって来る水球を眺め…… ニヤッと悪戯っぽく笑った。 「ッヴァ~~~カッ!!」 チルノが手のひらを水球に向け、冷気を送り込む。急激に凍らすことで氷内部の密度の差が生じ、亀裂が走る。 「ぶち割れなさいっ!!」 爆弾は空中で粉砕され、バラバラと拡散しチルノの下の水面に落ちていった。 「なっ…ッ!?」 「どうよっ!!これが『最強』の力よ!!」 チルノは吉影をまた自信に満ちた目で見下ろす。吉影にはエンペラーの銃弾を弾く力も残されておらず、立っているのがやっとのようだった。 「よくやったチルノっ!!もうコイツに力は残ってねぇ!俺達の勝ちだ!!」 ドゴオォォォン!! 「あぐッ…!?」 膝に弾丸を受け、吉影は片膝を着く。 「ぐあッ!!…」 さらに肩に銃弾が命中し、左腕がダラリと垂れる。だが吉影はなおも鋭い目付きで二人を睨み、 「キラークイーン!!」 拳銃弾を撃ち出した。 「くどいわっ!!攻撃は何であろうとムダだってことがまだ分からないのっ!?ホント~に馬鹿ねっ!これで終わらせてあげるわ!『P・F・G・H』!!」 チルノは再度『P・F・G・H』を発動した。空気が急激に冷却され、氷の壁が展開される。弾丸は氷に反射され、チルノには届かない。 「これで分かったでしょ?あたいとホル・ホースの『P・F・G・H』は『最強』なのよ!!」 チルノが勝ち誇って笑う。だが、吉影の目から光が消えることはなかった。 「発動…したな…?『P・F・G・H』を…」 「ええ、そうよっ!これからもっと弾幕をバラまいてやるから、アンタの弾なんて届かないわよッ!あたいの『P・F・G・H』は、どんな攻撃でも凍りつかせて止められるわ!よ~するに、あたいは『最強』なのよ!!」 「フフッ…確かに、どんな攻撃も凍らされれば、『無敵』で『最強』だな…、だがッ!!」 チルノを睨む吉影の瞳は勝利を確信していた。 「それがいいんじゃないか…どんなものでも一瞬で凍らせてくれるのが良いんじゃないかっ…」 「?」 「爆破しろッ!キラークイーン!!」 キラークイーンが右手のスイッチを押した。 ボグオオオォォォォ!! 「えっ……!?」 チルノの真下で、巨大な水柱が立った。チルノは『P・F・G・H』と共に逃げる間も無く呑み込まれ、水柱はチルノの冷気で凍りつく。 (そっそんなっ!?う、動けない…!!) 「どうだ…?いくら氷の壁を作っても…それが自分と密着していれば…!!」 吉影は血を流しながら立ち上がり、キラークイーンがライフル弾を構える。 「わたしの『爆弾』は防げまい…!このためだったのだッ!爆弾に変えた氷が砕かれ湖に落ちても、解除せずに…『囮』の銃弾を撃ち、貴様に『P・F・G・H』を発動させたのはッ…このためだったのだッ!!」 狙いを定めようとして、フンッと鼻で笑う。 「これほど巨大な的なら、外す方が難しいな。」 弾丸を爆弾に変え、発射した。 (ど、どうしよう!?このままだと、弾を避けられない!!でっでも、『P・F・G・H』を解除したら弾を防げないッ!あっああっ…!ど…どうしたら…!!) 自分が氷漬けになりながら、自分に向かって来る弾丸を見る。銃弾は何物の邪魔も受けず、真っ直ぐに突っ込んで来る。 (よっ避けられない~っっ!!) ドグオオオオォォォォ!! 「…ぐぅっ…」 チルノが氷塊と共に塵も残さず爆破されたのを見届け、吉影は歩き始める。身体中傷だらけだが、チルノの消滅と同時に暖かさが戻ってきたので、戦闘中よりは身体は動きやすい。霧も晴れ、目的地の大きな洋館も見えるようになった。 「くそっ…!まさか妖精ごときにここまで苦戦するとは…!道中で傷を負ってしまったのもマズイ…これから行われる遊技大会が大事だというのに…!」 腹の傷を押さえ、キラークイーンに支えられて、顔をあげた時だった。 「あ~あ、負けちまったぁ。」 「……!」 いつの間にか湖畔に戻って目の前に立っているホル・ホースに気付き、身構えるが、ホル・ホースは違う違うと手を振る。 「安心しな、おれぁもうアンタとやり合うつもりはねーよ。」 彼の手には『皇帝』もリボルバーも握られていない。 「ン?なに?チルノを殺したことを俺が復讐するって思ってんのか?そんなつもりはねーよ。アイツは妖精だ、一晩もすれば復活するからな。」 ホル・ホースは敵意の無い態度で馴れ馴れしく話し掛ける。 「アイツ、馬鹿だと思うだろ?学は無いわ常識は無いわ、ホントーに馬鹿なヤツでよ、俺も作戦とか教えるの苦労したよ。」 ハハハッと笑い、チルノが爆死した辺りに目を向ける。 「でもな、アイツ馬鹿なヤツだけど、ホントーにまっすぐなヤツなんだよなぁ…。一生懸命俺の言うこと覚えようとするしよぉ、本気で『最強』になろうと、がむしゃらに頑張ってるんだよ…。」 ホル・ホースは優しげな口調で続ける。 「だからよ、おれは『コンビ』を組んだんだ、アイツとよぉ。アイツを本当に『最強』にしてやりてぇし、何より…」 湖に向かって微笑む。 「アイツが『最強』になった時、すぐ傍で祝ってやりてぇからな…」 ホル・ホースはそう締めくくると、クルリと背を向け、ホル・ホースは後ろ向きに手を振る。 「じゃ~なオッサン、この世界で同じ人種と出会えて、嬉しかったぜ。」 その場から立ち去ろうとした時だった。 「待て…」 「ギクッ!(汗」 「貴様は嬉しくても、わたしはそうはいかないんだが…?」 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド 吉影が憤怒の表情でホル・ホースの背を睨む。背中が焼けそうなほどの視線に、ホル・ホースは全速力で逃げ出す。 「こ…こいつはかなわんぜッ!おれひとりじゃ完璧不利!ここは逃げて次の機会を待つぜ!おれは誰かとコンビを組んではじめて実力を発揮するタイプだからな…『No.1よりNo.2!』これがホル・ホースの人生哲学!モンクあっか!」 逃げ去ろうとしているホル・ホースの背に、吉影は弾丸の狙いを定める。 「やれ、キラークイーン。」 ビシィッ!! ドグオオオオォォォォ!! 「グピィ――ッ!!」 ホル・ホースの身体が宙を舞い、 ボチャン!! 水柱を立てて湖の水面に落下した。 to be continued…… 次回予告 ――――――――――― ――――――――――――― 「あなた…『皇帝』でしょう…?今、テーブルに置いたのは…?」 「ぐッ…ぐぬぬ…ッ!!」 「じゃあ、私は『奴隷』を出させてもらうわ。これで六連勝ねぇ。」 スッ… 「さあ、また血を頂くわよ。人間は全体の三分の一ほど血が抜けたら死ぬって聞いたけど…そろそろ限界じゃないかしら…?」 腕に刺された針が、血を吸い上げる。 「ぐッ…ああああ…!!」 テーブルに突っ伏し、耐える。終わると、青白い顔で彼女を睨む。 「何故…だ…っ?何故…わたしのカードが分かるッ!!」 彼女は唇に指を当て、優雅に答える。 「何度も言ってるでしょう?私には『運命』が読めるの…そういう能力。言っておくけど、イカサマなんてしてないわよ。悪魔は契約を破れないわ。」 圧倒的な高みから見下すような彼女の態度に、吉影の心は萎縮していく。 (あ…悪魔だ…異能の観察眼… 悪魔じみてる…あの的中率は…とっくに人間にどうにかできる域を超えている…『運命』の流れを読む天才…!) ガクリと吉影は項垂れる。 (勝てない…勝てるわけがない!わたしが何のカードを出すのか、全て読まれてしまっているのだから…!!) ガクガクと肩を震わす。絶望と恐怖に、目尻に涙が浮かぶ。 「おやおや、もうおしまいかい?何よ、ちっとも楽しめなかったじゃない。まあ、諦めるなら私は止めるつもりはないけど…後は、分かってるわね?」 フフフッと彼女は艶やかに笑う。その姿はまさに、夜の女王。彼女の前では人間なぞ、歩き回る陽炎に過ぎないのだ。 (だ…駄目だ…っ!このままでは、全身の血を抜かれて殺される…!!だが、一体どうやってっ!?どうすればこの『悪魔』に打ち勝てる!?この『運命』を操る『悪魔』を…、っ……?) 吉影はヒクリ、と頭を動かす。 (待て…『運命』だと…?それが本当なら、もしかしたら…!!) 「…ククッ……」 「…どうした、恐怖で頭がイカれたのかい?」 「…いや…君を打ち負かすちょっとした『秘策』を思いついてしまってね…」 「…フンッ『秘策』?『秘策』ですって?何をしようが、どんな小細工をしようが、『運命』を味方につけた私に敵うわけがないわっ!もう少し血を抜いて、頭を冷やしてやる必要があるようね?咲夜!早く次の試合を始めなさいっ!」 「かしこまりました。第八回戦、始め!」 (フフっ…何を考えついたか知らないけど…私の『運命を操る能力』に敵うはずがないわ。) 彼女は目の前の人間の周りを流れる『運命』を読み取る。 (『見える』…『見える』わっ!この人間の未来への軌跡が…!!) カードを出し、捲り、『市民』であることを確認する。それをあとニ回繰り返す。 (そしてっ!…ここでっ!!) 『奴隷』のカードを裏向きに出す。 (さあ…沈めてあげるわ…出しなさい!!『皇帝』をっ!!) 吉影が一枚のカードを選び、テーブルに置く。 「「オープン!!」」 二人同時にカードを捲る。そして…!! 「…う…ウソ…」 吉影の手には、『市民』のカードが握られていた。 「ウソ…ウソよッ!そんなっ、たっ確かに、『皇帝』を出す『運命』が見えたのにッ!! ……っ!?」 (お…おかしいわッ!今まさに、『運命』は私が『勝っている』と教えているッ!!一体…どういうことなの…ッ!?) 「…それでは、第3回戦、始めてください。」 「何を言っているの咲夜ッ!?次は9回戦のは…ず…?」 首を傾げているメイドの横のボードには、二回戦までの結果しか記録されていなかった。 「はっ!?」 狼狽えながら時計を見る。 「じ、時間が…、一時間…戻っている…ッ!?」 「フフフ、気付いたようだな…?」 吉影はニヤリと笑い彼女を見返す。 「そうだ…今、私が時間を一時間ほど巻き戻した。もっとも…わたしには君のように、消し飛んだ一時間分の記憶は無いがね…そして…ッ!」 吉影の瞳がギラリと輝く。 「その一時間の『運命』はッ!!既に固定されているッ!もはや貴様が『運命』を読もうとッわたしの行動を読むことはできないッ!!」 「う~っ!で、でもッ…なんであなたは運命通りにならないのよッ!?記憶が無いんでしょ!?」 「フフフ…いいか…良く覚えておけ…それは、わたしが人間だからだッ!」 「に…人間だから…?それがど~して理由になるのよ!?人間なんてむしろおんなじこと繰り返してるだけじゃないッ!!」 「…そうだ…確かに貴様ら妖怪から見れば、人間はループしているかもしれない…。生まれて生きて、そして死ぬ…!『人』の『夢』と書いて『儚い』…よくぞ言ったものだ…だがッ!いやっ、だからこそッ!!人間は『運命』を…乗り越えることが出来るのだッ!!」 「うっ…うう~っ」 彼女は己の強みを破られ、目に涙をためて萎縮してしまっている。もはや夜の女王としての品格は無く、その姿はただの五百歳児。 バァンッ!! 吉影がテーブルに掌を叩き付け、圧倒的な威圧感をはらんで啖呵をきる。 「さあ…どうする吸血鬼…ッ!?わたしは人間賛歌の世界から来た人間だぞ…!?カビの生えた『ラプラスの悪魔』に…気まぐれに跳ね回る『シュレディンガーの猫』が捕らえられるかァッ!!!!」 次回!~吉良吉影は静かに生き延びたい~ 第十話 『賭博黙示録 ヨシカゲ』 乞うご期待!! ネタバレ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ これは嘘予告です
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【作品名】パワプロクンポケット8 【ジャンル】ゲーム 【名前】8表主人公 【属性】エージェント 【大きさ】特殊な体形(公式サイトの画像等を参照)の成人男性並 【攻撃力】拳銃:サイボーグの装甲板も撃ち抜ける威力、弾数は15発、予備のマガジンは最大99。 機関銃:ちらは自分と同じサイズのロボットを容易く撃破、弾数無限 【防御力】銃弾を数発受けても戦闘続行可能 【素早さ】機関銃弾とほぼ同じ速度で移動可能、自分の身長の数倍近い高さまで跳躍できる。 反応は2,3m先から放たれた機関銃弾を見てから回避できる 【戦法】できるだけ後ろに跳躍して距離を取りつつ機関銃を撃つ。 old 【作品名】パワプロクンポケットシリーズ 【ジャンル】ゲーム 【名前】8表主人公 【属性】エージェント 【大きさ】特殊な体形(公式サイトの画像等を参照)の成人男性並 【攻撃力】サイボーグの装甲板も撃ち抜ける拳銃を所持。弾数は15発、予備のマガジンは最大99。 また弾数無限の機関銃も所持、こちらは自分と同じサイズのロボットを容易く撃破できるほか、 当て続ければ戦闘ヘリも撃墜できる威力を持つ。拳銃・機関銃共に射程は現実のもの相応だろう。 【防御力】当たり所にもよるが銃弾を数発受けた程度では全く怯まない。 【素早さ】移動速度は達人並み。ただし自分の身長の数倍近い高さまで跳躍できる。 反応は数m先から放たれた銃弾を回避しながら逆に撃ち返すレベル。 前方・後方・上空を武装したロボットなどに包囲されて銃撃を仕掛けられても切り抜けられ、 機関銃やミサイルランチャーなどを装備した戦闘ヘリを無傷で墜とすことも可能。 【特殊能力】宇宙人やアンドロイドに怪盗、ガチホモさえ惚れさせてしまうほどにモテる 【長所】間違いなく素の戦闘能力は表主人公中最強 【短所】残念ながらガンダーロボに乗っていない 【戦法】できるだけ後ろに跳躍して距離を取りつつ機関銃を撃つ。 vol.139 0440格無しさん 2023/06/14(水) 19 27 25.32ID mI6qcrAG 8表主人公再考察 3mマッハ2反応の銃持ちなので戦闘ロボットの壁上の銃持ち勢辺りまで上がれる。 銃弾は2発までなら耐えられるものとする。 ○ジャコ〜エレン・リプリー 機関銃勝ち ×リリアン 先手魔法弾負け ×ガンナー ビームガン負け ×シェリフ 3発撃たれて負け ○雷 人間大ロボットを破壊できるなら鉄の装甲服貫通より強いだろう。先手射撃勝ち。 △雑賀辰巳 倒せないが相手の念写はかわせる。 ×アイアンマン マッハ8で接近されながら各種武装負け ○小狼 撃って勝ち ×探査衛星はやぶさ 体当たり負け △フレア 距離をとりつつ戦って分け ×ハクオロ(ゲーム) 威圧負け ×バーニイwithザク改 ザクマシンガン負け ×主人公(エスパードリーム) エスパーフラッシュ負け △W・アール 倒せないが射程外には逃げられる これ以降もいくらか見たが火力が足りず倒せない リリアン>8表主人公>エレン・リプリー vol.9 343 :格無しさん:2007/11/10(土) 19 40 12 8表主人公考察 ○弥五郎~シャーロックホームズ 射殺勝ち ×ロトの子孫 ラリホー負け ○ニック 射殺勝ち ×ジョーズ 食いつかれ負け ×近衛兵 大きさ負け ×旅客機 同上 ロトの子孫>8表主人公>ニック・スクライヤー
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前の回へ 目次に戻る 次の回へ . / {\/ /// 八/ }//\___ / // /// } / .{\ } . / // ⌒\/ ̄ ̄{/ ̄ ̄ ̄ ̄ 結 あ /{ { /⌒\_{/ /_______ 婚. た /__/ /{\___/⌒ ____. し し { ________,/ { \___/⌒ た は 人 __{ { \____/⌒\_ 女 『 \_{ / ̄ \__/ /\ ∨ : 恋  ̄{ _/ /}\ {_) } } 』 { ‐くク/ \ }_ノ / を . \ - \ _/{ 知 / } {. ら / } 人 な ー─┐ } \ い く_,二_ ノ} で 人___ノ -=ニ} 八 -=ニ\/ // ̄ /ニ\ _/(/ /ニ(_)\ /-/)ニ/ /ニニ二二{\ { /ニニ/ /ニニニニ∧ { { 二{ {ニ二{__)ニニ∧ { { (_{ {ニニニニ二二∧ / // ///二二ニ=- // // ∧ . / /// ///ニニ=- //}/^{ /} こいつも何考えているか / / //// ________/ / 乂 /} わからないわ……… \{/ ///-/ ___, } }/./\}_ノ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ {⌒\{ {/___ //_____ } } おまえができちまったから {//\{ { ‐モソ_ノ / トソノ /}ノ 結婚するハメに {人_{ {  ̄ / 、 } なったっていうのに… 乂=- { { / 、__/ ./} ・ ・ ・ ・ / \{ { U ____ク //} おまえがいるから // //乂{\ ´___ノ /// 離婚もできないっていうのに… . // //ニ=- \=- . // . // /\)ニニ(_\ニ=- ,___/ 父親似よ! // / {\\)ニ( ̄) \ / ̄ ̄ ̄ ̄} / : : `ヽ ,_/Yー'ィ、ーヘ__ | : : | ,ィJ .7⌒ヽレz / | : : | ゝ,-、/ zュ≧ }_し \. : : / 〈トi } fチ  ̄∨ ̄ ,ィ勿 -、´/ __ イ ∧ \ ` / , <´ ∧ }下、 // / ./∧ ∨イ{// /イ// /// |、\ /// // ⌒ヽ |ハ. ∨ イ __...イ /´ |l∧ | {´ ̄ イ ..... |コハ {(ハr─‐、 イ込リイ |\ハ\ハイ込リ |/ヽハ |ハ / 、 U ト、ロ [ハ |∧ ヽ _ノ==ュ | }]] _ス}ノ ∧ r‐'ー-  ̄`>ト、|f≧Y V ∧ ─‐' ト一'\{ ヘ } } >-r< | { ┌──} ノV二二二二V ∠イ⌒ソ⌒iニニニレ{ / / くニニニニ〉 いや…勘ちがいしないでくださいよ 〈、 イtェラ }/⌒iニリ 大家さん _ ノ fリノl/ {/_`l_ /´ { チョッピリばかりって言ったのはですね…ほら! ┌───‐{ノ}二` /. イ⌒! ・ ・ {_/ ̄/ ー─r<´ 八 50数万円しかないって意味でしてね……… /三三ヘr─┐ //\ {_}\ / \ ∨ Y二.) {/´ ̄ ̄/ /レ}/⌒i/ , イ⌒ヽ . ∨ }、匚) |/ ̄}_,/ / // / ', ∨__}_\_) 冂 lフフ冂 {/ l (__ ヽ. {ノ / {ノ { } \ /⌒ヽ // / _ノ / /⌒ヽ / / / / ↑一番上に戻る